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02-07


  

 ◇
 
 
 まったくもって困ったことに、ヨウは一度言い出したら絶対にこうするというタイプだ。
 

 それが良くも悪くもあるんだけど、その実行力は確か。お仲間もお墨付きだ。おかげさまで俺のワルデビューは今日にでもするらしい。
 嫌な予感しかしないから、是非ぜひご遠慮願いたいんだけど、ヨウの一直線っぷりは誰にも止められない。嫌ってほど、俺はそれを経験したきた。ははっ、思い出しただけでも涙ちょちょ切れ! 語り出すと長くなるけど、まずあいつのそういう一面を見たのは俺を舎弟にしたあの日で以下省略。
  
 だからその日、学校を終えた俺はいつもとちょい違う時間を過ごすことになった。
 いつもだったらたむろ場に直行するんだけど、今日はたむろ場には行かず、ヨウに誘われるがまま舎兄のマンションに赴き、そのままお邪魔します。マンションの五階に住む舎兄の部屋にお邪魔することになった。
 
 記憶上、あんまヨウのところにはお邪魔した事がない。
 これが初めてってわけでもないけど、お邪魔した回数は両手の十本指で数えられる程度。一年の付き合いにしては数少ない方だ。泊まったことも一回だけあるけど、それっきりだ。
 

 でもこれはしゃーないこと。
 
 
 ヨウの家庭が複雑だから、ヨウ自身家に帰りたがらないんだ。すこぶるご両親と仲が悪い。その代わり、俺の家に来ることは多い。しょっちゅう泊まりに来る。もはや常連さんだ。俺の家族とも仲が良いしな。
 
 ヨウの住むマンションは3LDKで結構リッチ、建ってからそう年月は経っていない新築さを保っている。
 中も超綺麗で、ワックスでピカピカに磨かれた廊下の向こうには整理整頓されたリビングが出迎えてくれる。俺の家なんて、テレビ回りとかテーブルの上とか物でごちゃごちゃしてるのに、一切それが見当たらない。ご家族は綺麗好きとみた。

 ただしヨウ自身は「ツマンネェ潔癖な家」だそうな。
 
 言われてみれば、あんま生活感を感じない。
 綺麗だけど物が少なくて殺風景。ひんやりと冷たく殺伐とした空気が漂っている。まるでヨウの家庭事情を教えてくれるように、その空気がギスギスしているのも否めない。俺が初めて此処にお邪魔させてもらった時も、第一印象は「ちょっと物寂しいな」だった。賑やかなことが大好きなヨウを知っているだけに、訪れた時は意外な一面を見た気分になった。
 
 ヨウと仲の悪いご両親は共働きをしているらしく、昼間は家を空けている。義姉のひとみさんも大学の後、バイトに直行しているみたいで家には誰もいなかった。
 

 だから気兼ねなくお邪魔できる。

 
 俺はヨウの部屋で重たい通学鞄を下ろし、「相変わらず何もない部屋だな」笑声を漏らしながら舎兄の部屋への感想を述べた。
 ヨウの部屋もリビングと同じようにがらんとしている。ベッドに机、コンポ、クローゼット…、必要最低限の物しかない。部屋の主があんまり家に帰らないせいだろう。
 
 「ほんとほんと」俺の意見に賛同してくれるのはワタルさん。
 ワルデビューをさせると意気込むヨウを面白がって、俺等と一緒について来たんだ。ついでにハジメも一緒、彼女と喧嘩したからこっちに来たんだと思う。なんだかちょいと不機嫌気味だ。

 あーあーあー、毎度の事ながらあんた達もよくやるねぇ。

 内心で呆れていると、「適当に座っててくれ」ちょい飲み物と用意してくるから、なんて言って舎兄は部屋を出て行く。その際、「灰皿は机にあっから」と喫煙者達のために机を指差す。喫煙者ってのは此処にいる野郎共全員だったりする。
 とはいえ、ハジメはちょっとしか喫煙しないんだ。あんま煙草は合わないらしい。どっちかっていうと俺の方が喫煙量が多い。
 
 う゛うっ、ほんっと悪くなったよな俺も。初めて吸った当初は二度と吸うもんかって思ってたのに。
 父ちゃん母ちゃん弟の浩介、ごめんよっ、息子(兄)はまた一つワルになってしまいました。でもでもでもっ、人としての道は外さないからっ、カツアゲとか万引きとか絶対しないから!




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