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舎弟、舎兄について考える



 ◇ ◇ ◇
 
 
 昼休みの体育館裏はとても静かだ。
 のんびりのほほんとした空気が流れている上に、爽やかな風がさわさわ。暖かい日差しがぽかぽか。眠気を誘われるくらい平穏な空気、青々とした空の下で食べるメシは格別に美味しい。うん、格別に美味しいよ。

 今日の弁当の中身、俺の大好きなコロッケだし、あー、幸せ。超幸せ。
  

「ハジメのヘタレ根性なし! どーして女の子に言い寄られてるの?! 馬鹿! 信じらんない! 断りなさいよ!」

「ぼ、僕は言い寄られてないから! 質問されたことに答えただけだしっ。そういう弥生だって、見境なく男に愛想振ってるじゃないか!」


 ………。

 
 ふっ、俺の頭上で罵詈讒謗(ばりざんぼう)が飛び交っている。
 でも、ま、平和だねぇ。そう思いたい、ああ思いたいとも。真昼間からカップルの痴話喧嘩を耳にしても、これはいつものことなんだ。平和なんだぞ。超平和なんだぞ。


「なによ、ヘタレじゃないって言うなら私のことを抱いてみなさいよ!」


 ぶはっ、俺は食べていたコロッケを噴出しそうになった。
 や、弥生、俺等の前でなんてことを。恥じらいはないのか、恥じらいは! ……嗚呼、平和って何だっけなぁ。


「な、なっ…ッ。弥生! そういう気もないくせにとんでも発言は控えてもらいたいね! 僕だって男だ。その内、泣きを見るのは弥生だから!」


 ……あっらぁ、今、お何時?
 うん、お昼だね。俺の腕時計は正午過ぎですよーって教えてくれてるんだけど。お二人さん、まだお子さまは起きている時間だぞ。お母さん方に聞かれたら白眼視される会話だぞ、おい。

「へええ、抱けるの? ヘタレハジメさまが私を? 逆に私が襲っちゃいそうだけどね!」

 てか、あんた等幾つ? 高校生だろーよ。

「言ってくれるじゃないか弥生。その内、マジで襲うよ。マ・ジ・で!」

 あのなぁ二人とも。現実を見てから、そういう発言はしろっつーの。一夜の過ちを犯した事後をちゃーんと考えないと、追々泣きを見るぞ。

 いやマジな話。
 性行為っつーのは、保健で習うように軽はずみでやっちゃなんないんだって。身近に脱童貞してる奴等がいるけどさ、いちゃうけどさ。


 それに何よりさ、俺等の前でそういう喧嘩は…、しかも…、
 

  
「なあ弥生。ハジメ。俺、退いた方がいい感じ? 俺、邪魔だろ?」



 俺を挟んで喧嘩するのはやめてもらいたいんだけど。
 
 重々しく溜息をついた俺は弁当を太腿の上に置いて、頭上で痴話喧嘩をしている不良二人を右左交互に視線を送ると、「退こうか?」お二方に質問を投げ掛けた。即答で「絶対に」「駄目!」という二つの声。
 お互いに視線の火花を散らすと、フンッと鼻を鳴らし、そっぽを向いて腰を下ろす。
 
 「ハジメのバーカ」「馬鹿で結構だよ」「ヘタレ」「勘違い女」「根性なし」「分からず屋」「むっつりスケベ!」「それは聞き捨てならないんだけど!」左右の鼓膜が別々に悪口(あっこう)を受け止めて嘆いてる。俺の鼓膜が勘弁してくれよ、なーんて泣いてる。
 分かるぞ、鼓膜。本体の俺が一番勘弁してくれって思ってるんだ。お前の気持ち、よーく分かるぞ。




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