[携帯モード] [URL送信]
夜 景 集 会


  

【交差点四つ角
 某ビル二階ビリヤード場】
 
 
 
 窓から見える夜景は美しいとは言いがたい。

 
 無愛想面で突っ立っている三階建のビルや近くのコンビニ、高層マンション、道路を流れる自動車たち。彼等の放つ光のおかげさまで街並みはケバケバしく彩られる。主に光は黄で彩られているのだが、中には赤や白も交じっている。
 人工的に発している地上の光のせいで星明りが弱々しく見えるのは、仕方の無いことなのだろう。

 恍惚に光を見据えていた清瀬 蓮は窓ガラスを右の人差し指でなぞり、目を伏せ、そっと瞼を持ち上げる。
 

 仲間内に名を呼ばれ、彼は首だけ捻った。


 聞いているか? 問い掛けに、蓮は頷いて体ごと後ろへと方向を転換する。
 彼が正面を向いたことで話し合いが再開された。内容は『廃墟の住処』について。
 『廃墟の住処』とは近場の商店街を指し、シャッター街化している。ひと気のないその場所は不良達の集い場所として人気が高い。蓮が属している浅倉チームは『エリア戦争』と呼ばれる喧嘩でその地を自分達の縄張りとし、今日まで支配下にしてきた。

 しかし最近、その地がちょいちょい荒らされている。
 昨日もそこに集っていた仲間二人が何者かに奇襲を掛けられ軽傷を追った。本当に軽い怪我だったため病院沙汰にはならなかったが、連日このような事件が起こっている。見過ごすわけにはいかなかった。
 
 リーダーの浅倉は、「俺等に挑発してるのかもなぁ」苦虫を噛み潰したような面持ちを作って肩を竦めた。


「でなけりゃ、こーんな馬鹿な真似しねぇだろ? 俺等の噂、知らないわけでもないだろうに」

 
 実力的にも手腕があり、更にかの有名なチームと同盟を組んでいる噂は不良の間で飛び交っている筈。
 おかげ様で不意打ちと呼ばれるような喧嘩は吹っ掛けられようとも、正面から喧嘩を売られたことは片手で数えられるほど。

 「だぁあっ、腹が立つ!」正面から来いってんだ正面から! いっつだって喧嘩かっちゃる! ヤンヤン喚く浅倉は髪を荒々しく掻いてビリヤード台を一蹴。
 新入り達は浅倉の不機嫌に萎縮している様子だが、仲間がやられたらいつも我等がリーダーはああなるため、付き合いの長い者は苦笑いでその場を凌ぐ。

 無論、彼の舎弟である蓮も例外ではない。
 物に当たっている浅倉に失笑を零し、「落ち着いて下さい」宥め役に回った。同じ舎弟の桔平もヤーレヤレと呆れ顔で宥め役に回る。


 一方、副頭の涼は腕を組んで眉をつり上げた。
  

「怒れたリーダーは置いといてよかけん。取り敢えず、不穏な動きは見過ごしておけなかな。犯人の人相、目的、割れやないんやし、どげんかせな。ばってん、どげな風な対策を打てば…、こげん事件ちかっぱむかつくっ。な?
(怒れたリーダーは置いてていいから。取り敢えず、不穏な動きは見過ごしておけない。犯人の人相や目的も割れてないんだし、どうにかしないと。でも、どんな対策を打てば…、こんな事件むっちゃむかつく。な?)」


 同意を求められたが、果たして九州弁で話している涼の言葉を何人が理解できたかは謎である。
 新入り達は目を白黒させているし、慣れた者は「九州弁になってます」平然とツッコミをかました。おっと失礼、涼は標準語を意識して更に意見を重ねる。


「お前等も気を付けとけ。狙いは浅倉チームのようやけん…。どげんな小さい事件でも、なんかあったら自分等に報告しろ。いいな?」


 今は様子を見ながら行動しよう。
 涼は皆に同調を求め、怒れているリーダーにも同調を求めた。「ぶっ飛ばしてぇえ!」キィーッと喚いているリーダーに涼は溜息をついて、彼から同調を貰うことを諦めた。もう少し熱が冷めてから話題を振ろう。


(……、何もなければ良いんだけどな)
 
 
 副頭の懸念は、舎弟の桔平、そして蓮にも伝わっていた。
 蓮は苛立っている浅倉を宥めつつ、片隅で鳴る不安の鐘に胸騒ぎを感じる。チームに何かが起こる、その度に自分の起こした事件を思い出す。だから不安を感じるのかもしれない。



(一度あることは二度ある。正しくは二度あることは三度ある…、か。もうあんな過ちを犯したくはないのに、なんだこの不安は)
  
 

 もう過ちを犯さない、心に誓っているというのに時々自分を信じられなくなる。
 蓮はもう一度窓の向こうに視線を流した。窓の向こうには、ガラスに反射した自分の情けない姿と、着飾った夜景。ネオンで飾っている夜景はふてぶてしい顔をして此方を睨んでいる気がした。
 




[次へ#]

1/31ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!