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13-04

 
  

「なんであんより名前が売れているんだっ! パシのくせに、パシのくせにぃい!」


 胸倉を掴まれた俺は矢島にがくんがくんと揺すられる。

 アイダッ、アイダッ! そんなに強く揺すらないで! お、俺、重傷人っ、まだ怪我が完治していなっ、イッデェエ! ついでに息が苦しいっ、苦しいですっ。
 ジリジリと詰め寄ってくる美形不良に俺はタンマを連呼して、どうにか落ち着いてもらおうと躍起になった。動きを止める矢島は、何か言い訳でもあるのかと睨んでくる。言い訳もなにもドチクショウもねぇやい! 俺は何も悪いくないっ、名前なんて売れたくて売れたんじゃねえぞド阿呆!
 
「あ、あの、俺…、ヨウの舎弟なんで自然と名前が売れてしまうんですよ。別に俺は特別なことなんて」

「ということは何か? 荒川が活躍している。だから貴様はのうのうと恩恵にあやかっていると?」

 なーんでそうなるんだ!
 寧ろとばっちりが、俺にはとばっちりが飛んできてだなっ!

「貴様はそれでも不良か! 人の名前を利用し、その恩恵にあやかっているとは! 不良の風上にも置けない奴だっ」

 おーまえは俺の名前を騙ったよな! 忘れたとは言わせないぞ!
 偽田山圭太その1事件を起こしたよな! ちなみにその2は里見達な! くっそう、どいつもこいつも俺の名前を騙りやがって! 俺の名前を騙りたいなら、まず更生しちまうんだな! それだけで田山圭太の道は切り拓かれる!
 とかなんとか思っている場合じゃない。なんとかこいつを宥めないと!

「や、矢島さんっ。落ち着いてっ、此処は保健室っ…、静かにする場所です! っ、いや、多分今は俺と貴方様しかいないでしょうけど」

「ならいいな。あんとゆーっくり話ができる」

 俺はゆーっくりと寝たいんですけどっ、じゃ、じゃあこれだ!

「あ、アイタタタ…、体が…、お、俺、これでも重傷なんですよ。なので休ませて下さい」

「本当に重傷なのか?」

 見りゃ分かるだろう!
 この頬に貼られたガーゼと腕の包帯を見てみろ! 可哀想なくらい痛々しいだろ?!
 それに胴体には痣やら湿布やら、背中には根性焼きの痕やらっ、俺、鉄パイプで殴られたりもしちゃったんだぜ! 真面目に体が痛いんだけど! お前だっていっちゃん最初に酷い怪我って言ってたじゃないか!

 チャイムが聞こえて来る。
 これで助かったと思った俺の考えは甘く、「重傷とか何とか言って」本当は逃げる気だな、と矢島が睨んでくる。
 おうおう、逃げる気満々なんだぜ! 逃げるあったぼうなんだぜ! 心中で言った瞬間、「やっぱり逃げるつもりだったんだな!」と喝破されてしまった。あっはー、口に出してしまったらしい。田山大失態、やっちまったんだぜ。
 ……じゃなくって、ぎゃぁああ! ちょ、矢島っ、ごめんって!


 「矢島さんっ!」「根性を叩きなおす!」
 

 ―――ドンっ、ドンッ、ギシ!


 「い、痛いですって!」「パシのくせにっ!」「悪いことしてないのにぃいい!」「あんより目立つなんざ生意気なんだよ!」


 ―――ドンっ、ドンッ、ギシ!


 「ええい逃げるなら」「ゲッ、な、なにをあぁああ!」「逃げられないよう」「あぁあ包帯がぁああ!」「暴れるな!」「暴れますから!」

 
 ―――ドンっ、ドンッ、ギシ…、……、……、ガラッ。
 

  
「ケイさんは保健室で休んでいるんっスよね? ヨウさん」

「ああ。気だるいっつってたからな。んー、多分大丈夫とは思うけど、一応売店でゼリー買ってきてやった。ゼリーなら食えないこともねぇだろうし」

「オレ的にぶり返しはないと思いますけど…、ケーイ。大丈夫か? 来てやっ……、はい?」






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