01-24
「―――…ということで、お前は今から荒川の舎弟として一芝居打ってもらう。まずは昼休みに行動を…、って、おい聞いてるのか? ボケーッとした顔をしているが」
「聞いているのか、お前! あんちゃんがありがったく説明してるんだぞ!」
「そうだぞ、お前は今から俺達のパシリなんだからちゃんと聞け! 出来なきゃフルボッコだぞ、いいか!」
んなこと言われてもなぁ。
ポリポリと頬を掻いて、「はぁ」俺は取り敢えず相槌を打つことにした。
俺の気の抜けた返事が気に食わなかったのか、分かったのかとブルー不良二人組が喝破してくる。不良に免疫がついているとはいえ、見知らぬ不良に脅されるとやっぱり怖いわけで…、俺は「ハイ!」元気良くお返事してみせた。
本当にこいつ使えるのか、訝しげな眼を飛ばしてくる二人に俺は心中で罵倒。
俺をフルボッコ、だと? ははん、やれるもんならやってみろ! すーぐにフルボッコされちまうんだからな! 幾つ喧嘩の場を踏んでも、なっかなか喧嘩の腕は上がらないんだからな! ついでに心の中の俺はいつだって勝気だからな! 覚えとけドチクショウ!
心の中の俺が不良達にあっかんべーとしている余所で、「人選ミスったか?」灰色髪不良が腕を組んで、満遍なく協調性のないジミニャーノを観察。
うん、確かに人選ミスだよ。だって俺、正真正銘の田山圭太だもの。荒川の舎弟だもの。一芝居打たなくても、田山圭太の役回りは完璧なんだぜ! ……しっかしショックだよな。名前は売れっ子なのに顔を割られてないなんて…、悪い意味で名前が売れるのはヤだけど、顔を覚えられてないって結構ショック。そんだけ俺、顔の印象薄いのか?
と、灰色髪不良改め、矢島 俊輔(やじま しゅんすけ)が俺の胸倉を掴んで、ギッと睨んでくる。
「お前、さっきから集中して話、聞いていないな?」
うわぁあああっ、すんませんっ、俺ワールドに入ってました!
いっやぁー、俺の得意技の一つなんですよぉ! 俺ワールドに入り込むという名の現実逃避!
てかてかてかっ、こういう暴力的態度は友愛を生みませんよっ! もっとフレンドリーにしてくれたってっ…、嗚呼、俺、不良に絡まれてるんだな。普段から不良と絡んでいる筈なのに、こういった不良のタイプはいないから…っ、嗚呼もうこの不良さん嫌い。俺、正真正銘のパシリにされてるし!
「ぐるじいでず!」取り敢えず手を放してくれるよう頼めば、仕方が無さそうに矢島が解放してくれる。
あー苦しかったっ…、本気で首を締めてくるんだもん。
ゼェゼェ息をついていると、「こいつ本当に使えるんですか?」なんかめっちゃ頼りないですよ、と矢島には敬語で喋る短髪青髪不良、川瀬 千草(かわせ ちぐさ)が俺の脛を軽く小突いてきた。
更に矢島にもタメ口な長髪青髪不良、谷 渚(たに なぎさ)が「ナリは完璧なんだけどなぁ」背中を思い切り叩いてくる(痛いっつーの!)。
パーフェクトもなにも、俺がその田山圭太…なんだけど。
使えるかどうか問われたら、うーん、多分使えないだろうなぁ。だって協力するつもりはないし。
「使えないと困る。なにせ、パシはあん達の話を聞いたのだからな」
パシ…、それって俺のことか? どーでもいいけどそれ、パシリの省略形だろ。
一応さ…、名前…教えたんだけど。さすがにメンドクサそうになりそうだったから田山圭太です、とは名乗れなかったけど、名前を聞かれた時、親切心から「ケイ」って名乗ったのに。パシって。パシってアータ。
……まいっか、少しだけの我慢だ。
成り行きだけどパシリに任命されて、(偽)田山圭太に近付けたんだ。どういう意図で俺の名前を悪用したのか探ってやる。ああ探ってやるともっ、俺の名前でなあにをしたかったんだ! え、不良さん方よ!
煮え滾る気持ちを噛み締めつつ、俺は「何をすればいいんですか?」改めて矢島に質問。
「お、俺…お話によると…、ヨ…、荒川の舎弟を演じるみたい…なんですけど…、こんな人気の無さそうな体育館裏にまで来て…、一体どうすればいいんですか? 俺」
キョロキョロと周囲を見渡す俺の視界に飛び込んできたのは、通い慣れた体育館裏。
俺のお気に入り場所のひとつで、思い出の場所でもある。此処は俺とヨウが初めてに会話した場所。正式に舎兄弟を結んだ場所なんだ。昼休みは此処で皆と弁当を食ったりしてる。
その体育館裏に俺達は今いるんだ。
オリエンテーションをしているであろう体育館から聞こえてくる教師の声をBGMに、俺は再三再四何をすればいいか訊ねる。
そしたら矢島が「だから言ってるだろう?」馬鹿じゃないかお前的な目で見てきた。
「お前は荒川の舎弟に成り済ますんだ。そのために今から説明してやる。これから起こる状況くらい把握しろ。ったく、パシは頭が弱いんだな」
「(っ〜〜〜誰が頭が弱いッ…)あ、あははっ、すみません」
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