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11-18


 

 と。
 

「オレ…、ヨウさんを引っ叩いたんだよな。そうこの手でっ…、そう…、ウ゛ワァアアアア! オレなんてっ、オレなんてぇえええ!」

「だぁあああっ、馬鹿、モト! なにしてるんだよぉお!」


 窓辺に駆け寄ったと思ったらモトが枠に足を掛け、そこから外に飛び出そうとした。
 慌ててキヨタが取り押さえるものの、「オレなんてミジンコダァアア!」モトは大発狂。ちょっと地獄に行って閻魔様とお友達になってくると言う始末。捨て身の張り手は、自分に大ダメージを与えたらしい。
 ヨウも大慌てでモトを引き戻そうとするのだが、窓枠にしがみつくモトは涙目でもう駄目だと落ち込む。

「尊敬してやまないヨウさんに張り手をかましたなんてっ、なんて、オレなんて基子になっちまえぇええ! オレは今日から女として生きる! オカマだっ、オネェ万歳よ!」

「うぇえええっ、ヨウさんのせいでいつぞかの基子が出てきちゃったじゃないッスかぁあ! どーしてくれるんッスか! こうなったらチョーめんどくさいんッスよ!」

「ちょ、頼むからモト! 俺は気にしちゃねぇって! 寧ろ感謝してるくれぇだぞ!」

「嘘よ嘘! ヨウさんはワタシを恨んでいるんだわ! そうよ、ヨウさんはワタシを嫌っているのよ! そうに違いないの! だからもうワタシが弟分している意味なんて無いのよ!」

「な、なんだその似非昼ドラ台詞はっ…、てか口調おかしい! 全部おかしい! 正気に戻れ!」


「……、どうでもいいが…、静かにしてくれないだろうか…。近所迷惑…、そしてこの台詞…、何度目…」


 シズは落胆したように肩を落とす。
 
 窓際でしっちゃかめっちゃかしているヨウ達を見守っていた響子は呆れ気味に笑った。
 「なんだよ」うちが引っ叩かなくても良かったじゃねえか。これでも心構えていたのに、まさか兄分を愛してやまない弟分が男を見せてくれるとは思わなかった。モトも成長したものだ。盲目になるほど兄分を崇拝してやまなかったのに、いつの間にか自分の判断で兄分に意見するようになったなんて、昔じゃ考えられないことだ。

 「好敵手の存在っしょ」ワタルが能天気に笑う。
 某調子ノリの活躍が彼を触発させているに違いない。まったくもって単純だ、男ってのは。張り合う相手がいると高みを目指そうめざそうとするのだから。ワタルの皮肉にお前は男じゃないのかとシズ。どっかの誰かさんも好敵手の存在によって高みへ高みへ目指そうとしているように思える。
 するとワタルはそうだったそうだったとおどけて、自分も単純な男だったと大笑い。掻いた胡坐を解いて、長いオレンジ髪を軽く乱す。
 
「さあてと。モトちゃんのおかげで、いつもの空気に戻って来た。このノリこそ荒川チーム。―――…なあ、リーダー。売られた喧嘩は徹底的に買う、だろ?」
 
 「ギャッ!」ヨウが窓から飛び降りようとするモトから手を放したせいで、渾身の力を込めて飛び出そうとしていたモトが勢い余って落ちそうになる。キヨタが悲鳴を上げながら彼の身を引き上げている中、ヨウは振り返り、小さな笑みを浮かべた。それは不敵そのものの笑み。
 ヨウはチームメートの問い掛けにこう答えた。


「ああ。当然だ」
 





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あきゅろす。
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