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「勝手にするんだからな」


 
 ◇
 
 
 日賀野チームに属している山田健太(通称:ケン)はその日の放課後、帰路とはまったく正反対の道を歩いていた。
 決して遊びのために抜け出しワケではなく、かといってたむろ場に足先を向けているわけでもなく、通学路外の大通りを速足で過ぎて行く。
 面持ちは硬く険しい。焦燥感に苛まれながら歩いていたせいか、連れのアキラに歩くのが速いと文句を頂戴してしまう。首を捻って苦笑交じりに詫びを口にするものの、表情は硬いまま。ダークブランの髪を揺らし歩調の速度を変えず、寧ろ速度を上げて歩く始末。
 アキラは自分が歩幅を合わせるしかないと肩を竦め、歩く速度を上げた。
 
「ケン。直接こっちが赴かなきゃなんないのかのう? 電話は通じんのか?」
 
 前を歩くケンにアキラが物申す。
 「通じなかったんです」平坦な声音で返すケンは手っ取り早く会いに行く選択肢を取ったのだと話した。
 ケンが向かっている目的地は中学時代の友の家。昨日、帆奈美伝いに突拍子もなく荒川チームから連絡が入った。それは迷惑メールが届いていないかという不可解な質問。
 よくよく理由を聞けばケイが危機に晒されているとのこと。迷惑メールに彼に関する内容が記載されているというのだ。

 事情を聴き、自分は急いで携帯を確認したが何も届いておらず。
 偶然にもケイとメアドを交換していたヤマトが自分に届いていたと言ったため、荒川チームに伝えたが、それ以降の情報は入ってきていない。果たしてケイは無事なのだろうか。いや無事だと思いたい。仲間達が救ってくれていることを願いたい。
 かの有名な日賀野大和と肩を並べた荒川庸一の下にいるのだ。きっと無事だろう。無用な心配なのかもしれない。

(それでも、なんだ。この胸騒ぎは)
 
 感じる胸騒ぎに吐き気が込み上げてきそうだ。
 かぶりを振ってケンは先を急いだ。ついには駆け出してしまう。「マラソンじゃと?!」頓狂な声を上げるアキラに。「すみません!」でも怖いんで一緒について来て下さいとケンは振り返らず声音を張った。ケンはまだストーカー事件を引き摺っているのである。
 
「勝手な奴ジャーイじぇりあ! まったく、ワシ帰りたいぞい。っ、て、ケン! 置いて行くんじゃないぞい! だぁあもうっ、ケーン! 冗談じゃから速度を落とせー!」

 やれやれと溜息をついたアキラは見る見る距離をはなしていくケンに気付き、慌てて地を蹴ったのだった。
 
 
 ケイの家まで残り僅かと迫った時のことである。
 住宅街を走っていたケンは一軒のアパートに入ろうとしている向こうのチームメートを見つけた。
 あの金髪少年は確か、荒川のことをこよなく愛している(語弊)不良だったような。スーパーにでも行っていたのか、手には買い物袋が提げられている。「モトじゃいのう」アキラが口笛を吹いて相手の名前を紡いだ。
 
「荒川のわんこー! わーんちゃーん!」

 連れが余計な呼び掛けをしてくれたおかげで、向こうはドドド不機嫌でこっちに視線を流してきた。
 「ゲッ。アキラさん」睨んだ相手が自分の叶わぬ相手だと気付くや否や、そそくさとその場から立ち去ろうとする。ケンは慌ててモトを呼び止め、彼に駆け寄って自分の目的を相手に話した。べつに喧嘩をしにきたわけではない。ただ昨日のメールとその後のことを教えて欲しいのだ。
 ケイが家にいない可能性もあるため、チームメートからまず情報を仕入れようとケンは考えていた。ぶっきら棒にでも大丈夫だと言ってくれる、そう信じていた。

 しかし。


「ケイは…」


 表情を曇らせるモトにケンは言いようのない不安を感じる。
 「なあ」あんたって確かピッキングできるよな? モトは突拍子もない質問を飛ばしてきた。肯定の返事をすれば、ひとつ頼みがあるのだとモト。その瞳に宿した哀切にケンはただただ息を殺すしかできなかった。
 



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