11-04
ゲームと名目した勝負のこともある。
敗北してしまった勝負に悔しさはなく、寧ろ気持ちは仲間を痛めつけてくれた首謀者に矛先が向いていた。
(よくもケイを…っ)
煙草の先端を噛み締め、ヨウは荒々しく紫煙を吐いた。
この落とし前は必ずつける。必ず相手の正体を暴く。必ず仇を取る。荒川に喧嘩を売ったこと、死ぬほど後悔させてやる。
ギラついた眼光を瞳に宿らせていたヨウは、響子に声を掛けられ我に返った。クッキーの空き缶に灰を落とし、視線を彼女に向ける。物言いたげな表情を浮かべる響子は染めたフロンズレッドの髪を耳に掛け、「これからどうする?」当たり障りのない言葉を掛けてきた。
これからどうする?
決まっているではないか。報復するのだ。
しかし響子の言いたいところはそこではないだろう。報復する過程を尋ねてきているのだ。
「情報が足りねぇんだよな」
ヨウは煙草を銜えたまま、意見する。
向こうでココロの動く気配がした。空気の入れ換えをするようだ。喫煙者が二人もいるため、煙たくなったのだろう。耳障りな雨音が鼓膜を打ってくる。
「ケイを軟禁、いや監禁した輩の情報が一抹も手に入ってねぇ。なんの目的でケイを監禁しやがった。二日も監禁したその理由は。俺達を挑発してくるその目論見はっ…、悪い。話が逸れた。俺達にゲームを仕掛けた輩のメアドも、もう通じねぇ。ケイを甚振るだけ甚振って、俺等をおちょくるだけおちょくって姿を晦ましやがった」
もしや巷で騒がれている不良を甚振っている輩の仕業か。
目を細めて宙を睨むヨウに、「ケイの携帯に」何か手掛かりはないかな、弥生が静かに口を開いた。それをハジメは可能性はゼロに等しいだろうと否定する。首謀者はご丁寧にケイのブレザーに携帯を戻している。ということは、証拠はすべて削除しているだろう。
「でも一応確認はするべきじゃ」
ココロは彼氏の濡れたブレザーから携帯を取り出し、話し合っているヨウ達に歩んで舎兄にそれを差し出した。
受け取ったヨウは中身を開いて確認する。通話履歴を見るがチームメートや家族、彼の友達の名前しか表記されていない。メールの受信・送信ボックスには自分達とやり取りした二日分のメールが。手掛かりになりそうなものはなにもない。
「なにもないか」溜息をついて、下書きを開く。
目を削いだ。三日前の夜付けでメールが作成されている。宛先には自分の名前が。指をボタンに掛けてメールを開く。
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To:荒川庸一
件名:ちょっと相談
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俺の携帯にさ
迷惑メールが
届いているんだけど…
そのメール
ちょっと変なんだ(汗)
俺が荒川の舎弟だって
分かった口振りのメールで
どうすればいいかなこれ
めっちゃ怖いんだけど
もしかしてこれ、す...
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―――…迷惑メールに悩まされている、相談のメール。
事件が起きる前日にケイは自分に相談しようとしていたのか。
ということは迷惑メールの不審に誰よりも早く気付いていたということなのか。
きっとケイのことだ。口頭での説明が思いつかず、翌日自分達に会って直接相談しようと決めていたのだろう。けれどケイは翌日の朝に…、本人もまさか朝一に奇襲されるとは思っていなかったに違いない。もしもこのメールが自分に届いていたら、きっと展開は変わっていただろう。
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