ある意味史上最強の不良
階段を二段越しに跨いで教室を目指していた俺は二階で足を止めた。
俺の立ち止まったフロア付近には学年という学年はない。
図書室とか、美術室とか、第一理科室(第二理科室は四階に存在する)とか、理化準備室とか、そういう移動教室で使われそうな部屋が多数存在しているんだけど…、美術室前から歓喜というか、喜びに満ちた声が聞こえたんだ。
美術室前から声って…、うーん、どっかのクラスが美術室を使うなら、もう中に入ってるだろうし…、さほど気にせず段に足を掛ける。
「あんちゃん! 舎弟の噂、順調に広がってるみたいだよ!」
ん? 舎弟の噂?
会話の切れっ端を耳にして思わず足を戻した。んでもって、聞き耳を立てる。
「やったね、あんちゃん」喜色に溢れた台詞に便乗して、「ほんとですよ!」これまた喜色溢れた台詞が廊下を満たす。だけど、「阿呆が」ハスキーボイスが喜色を打破。今からが本番だ、本腰を入れておけと喝を入れた。
というか本番にも入ってないではないか、ハスキーボイスが不機嫌に吐き捨てる。
「どうなっているんだ。荒川は仲間意識が高いのではないのか? 舎弟の噂を流せば、必ず食らいつくと思っていたが…、あんが間違っていたか」
「なっ、アンちゃんが間違ってるわけないじゃないですか!」
「そうだよ、あんちゃん、これからだよ!」
………。
確か被害者さんの証言によると、(偽)田山圭太騒動を起こしてくれているのは、三人組で、舎兄弟っぽくて、リーダーっぽい奴の一人称が妙…だったな。会話だけならバッチシビンゴじゃないかよ。舎弟や荒川のお名前まで出てきてるし?
俺は廊下の曲がり角から顔を出して、恐る恐る美術室前廊下を見やる。
そこには、うっわぁ…、見るからに不良って輩が三人もいらっしゃるんだけど。
チョー近寄りがたい不良がいらっしゃるんだけど!
ハジメよりも深い銀髪、いや灰色髪不良と(こいつがリーダーっぽそう。しかも顔が綺麗顔だ。イケメンっぽい)、残り二人は青髪不良。片方は短髪で、片方は長髪。髪を一つに結ってる。
灰色もありあえないって思うけど、青もないと思うぜ。目には良い色だからって青はないよ、青は。日本人の髪染めは無難に茶だろ、茶。ギリでキンパだろ。何を思って青に染めようと思ったよ。俺だったら死んだって青になんか染めないけどな! こんな凡人の顔には絶対に青なんて似合わないもん! キンパだって似合うかどうか怪しいとこなのに!
まあそれは置いておいて、んー、あいつ等…見た目からして新入生…、んにゃ同級生もしくは上級生だろうな。
息を潜めて俺は会話を盗聴しようと努める。
向こうは俺の存在に気付かず、話を続けていた。
「恐喝の噂を流すのはいいが…、もしかしたら向こうは受け流しているかもしれんな」
灰色髪不良は眉を八の字に寄せて腕を組む。
有名な分、色んな噂が立てられるもの。微々たる噂は受け流しているのかもしれない、灰色髪不良は神妙に語った。この時点で、(偽)田山圭太の犯人が俺の中で確定したわけだけど、今は考えるよりも相手の話に集中することが先決だ。俺は会話に聞き耳を立てる。
「誤算もあったしな」灰色髪不良は小さく吐息をついて、視線を窓辺に流した。青髪不良二人が「誤算?」首を傾げる。深く頷く灰色髪不良は目を細めて、重々しく口を開いた。
「あの舎兄弟は異色の舎兄弟として名を挙げている。何故、異色と言われているか知っているか? 不良の荒川に対し、舎弟は地味なナリをしている。所謂不良じゃないフツーの野郎と荒川は舎兄弟を結んでいる。パッと見、パシリにも見えるそうだ」
……わーるかったな、パッと見パシリくんみたいで。
「だがナリに反して、舎弟は荒川の“足”として活躍を見せている。……ナリは、敵を油断させる向こうの策略かもしれないな」
ははっ、油断? 策略? 俺は単に地を貫こうとしているだけですが?
『不良の舎弟になる=不良にならないといけない』なーんて方程式、誰が作ったよ! 高校在学中は髪染めなんてぜぇえったいしないんだぞ、俺! だって教師が煩いじゃんかよー!
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