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10-20



 ヨウは微苦笑し、キヨタの様子を見守ることにした。
 あれこれ悩んでいるキヨタを眺めていること数分、ようやく納得する結論が出たのか、キヨタは迷っていたジュースは全部買ってしまうと五本ほど500mlのペットボトルを腕に抱えてしまう。大層呆れたのはヨウだけではないだろう。モトも買い過ぎだとツッコむが、本人はいたって真剣らしい。

 「モトだって」ヨウさんが風邪ひいたら全部買うだろ? とキヨタがクエッションすると、即答で当たり前だとモト。
 ジュースだけでなく、体が温まりそうなものを買うと断言した。よってヨウは溜息をついたりつかなかったりである。風邪はひけないな、と思った瞬間でもあった。
 
 無事に飲み物を調達した三人はスーパーを出てたむろ場に戻ることにする。
 キヨタが差し入れを渡しに行くというので、どうせなら彼女も差し入れとして連れて行こうと考えたのだ。ちなみにヨウもついていく気満々である。彼女を差し入れとして連れて行った時の間抜けな舎弟の顔を見たかった。
 もし舎弟が玄関に現れなくても、それはそれで暇つぶしになったと前向きに考えれば良し。後日、彼女を連れて行ったことを話し舎弟を悔しがらせてやろうと思った。

 駐車場を抜けてスーパーの敷地を出た時である。

 何処からともなく女性の悲鳴が聞こえた。野次馬魂がくすぐられ、ヨウはつい足を止めてそちらに視線を流した。よって後輩達も足を止める。揃って声の方を見やれば、傘を放り投げて尻餅をついている中年女性がいた。どうやら濡れたマンホールによって足を滑らせたらしい。折角買った品物も雨のせいで濡れ始めている。
 ダサいと後輩達が口を揃えた。ヨウも相手が見知らぬ人物ならば、同じことを漏らしてしまっただろう。けれど相手は見知った人物だった。ゆえにヨウは駆け足で女性のところに向かう。

  
「おばちゃん。大丈夫か?」


 傘を差し出しながら、ヨウは相手に声を掛ける。
 「あら」庸一くんじゃない、恥ずかしいところを見られてしまったと女性は苦笑い。中年女性は自分がいつも世話になっているケイの母親だった。大丈夫だと頬を掻くケイの母親は、買った代物を拾い始める。ヨウもそれを手伝い、「雨ってヤだよな」彼女の失敗を雨のせいにして肩を竦めた。

 ほんとに。頷くケイの母親は、遅れて手伝い始めるモトとキヨタに「まあ優しい」と綻んだ。
 後輩達は先輩が手伝っているから手伝っているまでなのだが、ヨウが女性の正体を明かせば、「うぇえ?!」ケイさんのお母ちゃん?! 頓狂な声音を上げたキヨタ。これは挨拶をしておかなければ、身を硬直させながら初めましてとキヨタは元気よく挨拶する。いつも先輩にお世話になっています、なんて声を張っていた。
 目をぱちくりさせるケイの母親は、「ああ。あの清隆くんね」と頬を崩す。


「圭太から聞いているの。村井清隆くんでしょ。圭太が弟みたいで可愛いって言ってたわ。ということは、貴方は嘉藤基樹くんかしら? 庸一くんからよく聞いているのよ。弟みたいで可愛いって」
 
「うっわぁああ! 光栄っス! し、知って下さっているなんて! け、ケイさん俺っちのことっ、くぅう、感激っス!」

「よ、ヨウさん! ケイのお母さんに何を言ったんですか?!」


 大興奮するキヨタと焦るモトに一笑し、「おばちゃん怪我は?」ヨウは話を振る。
 尻餅をついただけだから大丈夫。そう告げたケイの母が、やっぱり大丈夫じゃないと嘆いたのはこの直後。「そんなっ」卵が全滅しているなんてっ、一個くらい助かっていてくれても良いじゃないかと大ショックを受けている。


「ちょ、ちょっと奮発してお高めの卵を買ったのに! っ…、この卵の値段、レンタル店で韓ドラの新作DVDを借りるに匹敵する高さだったのに! こんなことなら、安めの卵を買って普通にドラマを借りるべきだったわ! 私の我慢がこんな形で仇返しされるなんてっ! ショックっ、大ショックよ!」

「あー…おばちゃん」

「最近ついていないの。きっといとしの静馬くんがいなくなってからだわ。目の保養がなくなったのよ。息子達が悪いってわけじゃないの。ただ静馬くんはおばさんの癒しだったから。庸一くんと静馬くんが我が家にいる日には両手に花、両手にイケメンだったのに」


 おばさんはこれから何を癒しに家事をしていけばいいの?!
 わざとらしく悲しむ素振りを見せる彼女は、まごうことなきケイの母親である。「ケイのお母さんだなぁ」モトはしみじみと感想を述べ、「ノリはお母ちゃん譲っス」キヨタはグッと握り拳を作った。やや感動している様子。




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