10-17 一言、大丈夫かメールを送ってみると、授業中に返信があり、『地獄に行っているんだぜ!』という文面が返ってきた。 大丈夫そうじゃないか、笑いを噛み殺してしまう。 明日には来れるんじゃないか、そう内心で思いながらヨウはそれ以上のメールを控えることにする。授業中だというのもあるのだが(それ以前に授業など念頭にない)、相手の体調を考えてメールは遠慮したのだ。文面では気丈に振舞っていても、実際には地獄に行ってしまいたくなるほどしんどいのかもしれない。 午前中、殆ど寝て過ごしたヨウは昼休みになるとワタルのいる教室に赴いた。 「ワータル」いつもの場所に行こうぜ、相手を誘い体育館裏へ。 途中売店で飯を調達することを忘れない。お目当てのヤキソバパンを買えたことにご満悦していると、ワタルが舎弟の行方を聞いてくる。休みだと答えれば、「また?」ワタルが落胆してみせた。調子ノリがいないとノリがイマイチではないか、文句垂れてくる始末。ご尤もだが自分に八つ当たりされても困るもの。病欠している本人直談判してもらいたい、ヨウは素っ気無く返した。 次いで、ワタルにここ数日は襲われていないかどうか質問する。 ワタルを執拗に追い回していた輩は、わざわざ向こうから出向いてくれた。 おかげさまで探す手間も省け、難なく事件は解決したが呆気ない終わりにヨウは釈然としない気持ちを抱いている。過剰なまでに不安になっていた舎弟にはああ言ったが、自分だってワタルの一件に不可解な気持ちを抱いてはいたのだ。 けれど舎弟の前で言えば不安が余計不安を呼んでしまい、動揺を引き起こしてしまう。あまり波立てて言わなかったのは、そういう意味合いがあったのだ。 過小評価してしまいがちな舎弟の悪い癖をどうすればいいのか、舎兄の自分でもイマイチまだ分からなかったりする。自己嫌悪していたら背中を蹴っ飛ばしてやる。それが最善の策だとは思っているのだが。人は簡単には変われないものだ。 話は戻り、ワタルはヨウの質問に大丈夫だと肩を竦める。 見られている気配がする時もあるが、今のところ襲われてはいないらしい。それは大丈夫に当てはまるのか、ヨウは苦笑してしまう。 「なんかあったら言えよ。巷を騒がせている不良の件もあるし」 「ヨウちんやしゃしい。惚れても?」 「惚れてもいいけど、愛はやんねぇぞ。俺はオンナが好きだ」 つれないとおどけるワタルは、渡り廊下から外を見つめ、「土砂降りだね」と天候の悪さに眉根を下げた。 二日前から雨天ではないか。これでは外で遊べない。ぶうぶう唇を尖らせるワタルに、「テメェは外で遊ぶタイプか?」ヨウがツッコむ。ちゃんと遊ぶタイプだとワタル、喧嘩は晴れ渡る空でやりたいではないかと拳を見せてくる。スポーツも好きだとワタルは訴えるが、ヘーキで反則するタイプだろと鼻を鳴らして先を歩いた。 ワタルと共にいつものたむろっている体育館裏に足を運ぶと、屋根のある渡り廊下で飯を食っている仲間を見つける。 「ヨウさーん!」 手を振ってくるモトとは対照的に、「ウ゛ッワァアア!」今日もいないのかと絶叫するキヨタ、両膝をついてずーんと落ち込んでいる。まさしく今の空模様と同じ。 グズグズと鼻を啜るキヨタを宥めつつ、ハジメが手招きしてきた。弥生もポッキーの封を切って手招き。いつもの光景に一笑し、ヨウはワタルと共に自分達の居場所へと足を伸ばした。 なんてことのない一日だったと思う。 調子ノリが病欠で休み以外は、弟分や仲間達とワイワイガヤガヤ。 話題は多々あったが、最近迷惑メールが増えたのだと弥生が愚痴ったため話題はそれ中心になった。自分もなのだとヨウが告げると、他の仲間達も同調。メアドを変更するべきかもしれないと各々愚痴り、それはお開きとなった。すぐ記憶から忘れられてしまう話題の一部に過ぎなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |