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10-07



 交差点に差し掛かる。見知らぬ通行人とすれ違いながら、俺はヨウと長い横断歩道を渡る。

 もうすぐ渡り切ろうとしたところで青は点滅、やがて赤に変わった。なのに俺を含む通行人達は急ぐ素振りもなく、自分のペースで渡り切る。停車していた自動車は今か今かと信号機を睨み、そして青になると勢いよく車道を走り始めた。帰宅ラッシュに入っているんだろうか。やけに車の行き交いが激しい。
 
 片側三車線の通りを横目で見やっていると、「俺だって怖ぇよ」中断していた会話が再開された。
 ヨウは俺と同じように恐怖心があると教えてくれる。先方の増す議事件でさえ味の悪い気持ちにさせられたのだ。仲間の危機と負傷に畏怖したと舎兄は語る。それでも何か起こるんじゃないかとビビッていたってどうしょうもないことじゃないか、ヨウは俺に尋ねた。ご尤も、俺は首肯する。

 分かってはいるんだよヨウ、俺だってさ。

 なのに感情って単純なようで複雑だから、一度不安に駆られると、そっからなかなか抜け出せなくなる。
 ヨウの言うとおり俺はトラウマになっているのかもしれない。経験とコンプレックスからくる、恐怖心が掻き立てられているのかもしれない。うじうじ不安になっているなんて調子ノリらしくもねぇな、ほんと。
 ヨウは川原に向かっているようだ。川原沿いに爪先を向けている。
 

「ケイ。いつか、仲間の誰かが利用されるかもしれねぇ」


 俺は自分の歩調が遅れていることに気付いて駆け足になる。
 気にする素振りも無くヨウは語り部に立った。「けど」大丈夫だと俺は信じてる、だって今まで乗り切ってきたことだからな。ヨウは首を捻ってあどけなく笑ってきた。不意を突かれる俺は自然と足を止めてしまう。
 同じように足を止めるヨウは、「だろ?」と疑問を投げかけてきた。

 なんだよ、不安になっている俺が阿呆みたいじゃないか。俺がチームのことを信じていないみたいなムードになっちゃって。馬鹿、信じているよ。信じているからな! ついでにヨウのカッコつけ! イケメンのお前が言うと素敵に無敵、バッチシ決まっちまうんだよ!
 「ないってもう」超ダサイ俺になってる、嘆きながら俺はヨウと肩を並べるために足を前に出した。笑声を漏らす舎兄はカッコ良すぎて悪いな、と皮肉を零してくる。まったくだよ。お前なんて女子にモテモテされて、あっはんうっふんして、ハーレムでも作りやがりなさい馬鹿野郎のドチクショウ! こんのスケコマシ!
 
「そういうカックイイ台詞は女子に言うもんだぞ。はぁあ、俺に言うなんて男の器でも見せ付けてくれているのか? お前が丼なら、俺はお猪口くらいか? うぇっ、ルックスの次は器で差をつけられたか。いや最初から差はつけられていたんですけれども! どげんしよう、俺はナニで兄貴に勝てるんだい?!」

「ははっ、それでこそケイだぜ」
 
 いつものノリが戻ってきたとウィンクするヨウに、煩いと俺は膨れ面を作る。
 お前が決め台詞を吐き捨てたせいで、戻らざるを終えなかったんだよ。いつまでもうじうじしていたら、それこそチームも俺自身も信じていないことになっちまうだろ。だから元に戻るんだ。ヨウが背中を蹴ってくれたおかげさまだ。感謝感謝ですよもう。
 「どうにかなるって」ヨウは俺の頭を小突いてきた。「へいへーい」信じることにしますよ、俺は頭部を擦りながらぶっきら棒に答える。
 

「何があってもイケメン不良がチームを引っ張ってくれるだろうからな。俺は信じることにしますよ、はい。それこそ何があってもさ。
―――…だけどヨウ、気を付けろよ。モトとも話していたんだけど、不良の間で起こっている最近の事件は得たいが知れない。んでもってお前は地元で有名だから、狙われる可能性が大きい」

「ああ。気を付けておく。なんかあったら俺の相棒が助けてくれるだろうからな。手腕なんざ関係ねぇ、俺の舎弟はテメェだけだ」
 

 ははっ、言ってくれるよなぁ。
 カックイイのなんのって気恥ずかしいよ。
 んでもって俺も思っている。なんかあったら俺の相棒が助けてくれるだろうって。そうやって舎兄弟してきたんだ。ヨウとならきっと乗り越えていける。舎弟だっているし、それに頼れる仲間だっている。大丈夫だよな。

 川原に辿り着くと小波立っている川面が目に飛び込んでくる。水面に反射された夕日がとても綺麗だった。





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あきゅろす。
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