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10-04



 ワタルさん曰く、昨晩に見知らぬ不良達に因縁つけられて、その人数の多さに危険を察知して逃避。今朝も学校に行く途中、奴等に遭遇して拳を振りつつ逃げてきたのだという。ワタルさんに因縁を持つ不良は沢山いると思うけど、なんか卑怯だなそれ。
 ワタルさんは鬼畜でドエスだけど、卑怯染みた行為だけは絶対にしない。さすがは直球リーダーを選んだだけあって、やり方は真っ直ぐだ。

 だからこそ不良達のやり方には憤りを覚えてしまう。

「ちょっちヨウちゃん。手ぇ貸してくれない? 僕ちゃーん、愛され過ぎて困ってるんだけど」

 へらへらっと笑う表情に覇気がない。かなり逃げ回って此処に来たんだと思う。
 承諾するヨウを見やった俺は、「キヨタ」舎弟に声を掛け、その長けた力を貸してやって欲しいと頼んだ。勿論だと首肯するキヨタは、どれくらい人数がいたのかとワタルさんに質問する。唸り声を上げてざっと十五人はいたんじゃないかとワタルさん、あくまで目測らしいけどかなりの人数だと思うぞそれ。
 

「どーもそいつ等。新手のチームみたいんぐ。いかにも俺サマも袋叩きにしようとしやがった。うぜぇんだっつーの」


 口調がガラっと変わるワタルさんに俺は心中で冷汗を流す。
 ワタルさんが俺サマって言う時は大抵喧嘩モードの鬼畜エスモードなんだよな。二重人格者なんじゃないかってほど、人が変わるんだよ。一年もすれば慣れるけど、やっぱ怖いな。ワタルさんの俺サマモード。
 
 苛立ちを募らせつつ放っていたブレザーのポケットから煙草を取り出したワタルさんは、一本抜き取るとそれを銜える。
 
 ライターで先端を焙り、煙草を吸って小さく吐息。紫煙を体育館裏に散らすと、「目的が見えねぇな」舌を鳴らす。
 ただのイチャモンにしてはやけに粘着質が高かった。一個人相手に大勢で掛かってくる意味も分からない。喧嘩スキーの自分でも、一度に相手にできる人数は限られている。小さく苦言した。そう、ワタルさんだって超人じゃないんだ。十人以上で来られたら敗北は目に見えている。ワタルさん自身もそれは知っている。
 

「目的あって狙われているのかもしれねぇな。何処で喧嘩を買ったか覚えちゃねぇけど」


 頭を掻いてワタルさんは率直な意見を漏らす。
 「どっちにしろクダラネェことだろうな」ヨウは発言者に感化されたように苛立ちを見せて鼻を鳴らす。

 目的があって…、俺は健太の事件が脳裏に蘇り、「もしかして」最近不良達を騒がせている奇怪な事件と関係があるんじゃないかとリーダーに言う。
 真杉の一件も引っ掛かったままだし、健太の事件も未解決。あいつをストーカーしていた奴もまだ捕まっていない。荒川チームと肩を並べている日賀野チームが狙われた事実があるんだ。可能性はないとは言い切れないと思うんだけど。

 ヨウは釈然としない態度で同調はしてくれた。
 半信半疑ってところだろうな。発言した俺も絶対そうだとは言い切れない。決定的な証拠があるわけでもないしな。俺の考え過ぎなのかもしれない。
 
「最近、不良を狙う輩がいるってのは耳にしているけど…、ワタルなら狙われても仕方がないよね。素行からして」

「それ。褒めてくれてないっしょ、ハジメちゃーん」

 ころっと口調をいつものウザ口調に戻すワタルさんは、勘弁して欲しいと拗ね顔で頬杖をついた。
 清く正しく楽しく相手を嬲ることをモットーにしている自分がなんでこんな目に遭わないといけないのか。ぶう垂れるワタルさんの下に弥生が戻って来た。ハンカチを当ててやる弥生に、「弥生ちゅわーん優しい!」両手を広げてそのままぎゅーっ。相手を抱擁する。

 びっくらこく弥生を余所に、「ゲッ」ハジメは立ち上がって何をしているんだと抗議した。
 そりゃそうだ。彼氏として黙っていられない光景だろう。彼女が野郎に抱擁されているんだもんな!
 
 ハジメはすぐ放すよう唸るんだけど、「ヤッダー」傷の癒しが欲しいとおどけてみせる。
 よってハジメがワタルさんの脛に痛恨の蹴りをお見舞い。どんなにハジメの手腕がチームで弱いと位置づけられても、弁慶の泣き所を一蹴されたらワタルさんだって一たまりもないだろう。




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あきゅろす。
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