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08-20


  
 すると健太がちょっち落ち着いたのか、『分かんないんだ』とボソボソ声で説明してくる。
 その分かんないが俺には分かんないんだけど。具体的に説明できるか、努めて優しく聞くと健太は鼻を啜って、『おれのいるとこ』視界が悪いんだ、と呟いた。

『なんか。気付いたら倉庫っぽいとこにいて…っ、扉開かなくて…、ワッケ分かんなくて。視界利かないから怖くて』

「倉庫? お前倉庫にいるのか?」

『多分…。わっかんねぇけど…』

 しゃくり上げる健太は続け様、三日間の状況を語り始めた。
 やや早口で喋るのは健太自身に余裕がないからだろう。スンッと鼻を啜って、『三日前から』おかしいんだと弱弱しい声を振り絞る。


『日曜…、圭太と会ったじゃん? あの日の夜から、知らない…、メール来て。それが件名無題の、内容なし。画像を添付されているものばっかで。しかも全部それがおれの写メで』


 すっげぇ気持ち悪くなって、そのメールを拒否したんだけど、また別のメアドで来るんだよ。

 いっそのことメアド変えてやろうかって思ったんだけど、今度は非通知の電話が来て。携帯を触っていたおれはうっかりそれに出ちまったんだ。そしたら、『迎えに行くから』とか知らない奴が言ってきて。ほとほとストーカーに参っていたおれだから、その電話で大打撃を受けちまって。
 翌日は家に篭ったんだ…、怖かったから。誰かに見られていると思うとすっげぇ怖くて。警察に言うべきなのかなって考えるほど、マジ気持ち悪くて。
 
 そしたら今度は郵便受けに封筒が入っていてっ、封筒には昨日消したはずの添付画像が写真という形になって送られてきたんだ。消印はなかったから、直接郵便受けに投函されたんだと思う。

 家の場所を割られている。
 ああ、ほんっとやめてくれ、そう切に思っていた昨日の夕暮れ…、電話で呼び出されたんだ。

 例の写真をネットにばら撒かれたくなかったら、おれの通う高校生門前に来いって。
 例の写真ってなんだよ。てか、ネットにばら撒くってなに? 得体の知れない奴が撮った写メをネットに流出されるのか? 怖い、なにそれすっげぇ怖い! ネットは世界に繋がっているんだ。ひとたびネットに流されたら収拾がつかなくなる。Youtubeとかに流されたらマジ泣く!
 
 もしかしたらすっげぇ不味い写メを撮られたんじゃ、そう思って指定された場所に向かったんだ。
 そしたら正門前に人がいたんだ。夜になっていたし視界も利かなくて顔はよく見えなかったんだけど、こいつが犯人だろうって確信したから…、そいつのところに走ったんだ。でも途中、背後にいた輩に気付かなくて…、襲われて…、気付いたら知らない場所にいて。
 視界はちっとも利かないし、手探りで扉を見つけても開かないし、俺の手に持つ携帯の受信ボックスには『迎えに来たよ』って変なメールは届くし。もう大パニックだ。体は超痛いし。

 親に連絡しようとも思ったんだけど、奇怪なメールはどんどん届くんだ。

 これを親に言えばどうなるか、勇者になれるならやってみればいいって。これ以上のことが起きるだろうからって。
 最初こそ負けてやるもんかとか思ったんだけど、家族の添付画像が送られてきて頼れないって思った。どうすればいいか分からない。どうすればおれは此処から抜けられるんだろう。リアルな脱出ゲームにおれ、ほんっとパニクって。怖くて。どうしようもなくって。


『圭太っ…、おれ、どこにいるんだろう。このままっ…、なのかな。警察に連絡するにもストーカーのやることなすことが怖くて』


 家族には迷惑を掛けられないし。
 涙声で説明してくる健太に、「大丈夫だって」三時間内で決着をつけると言ったお前のリーダーを信じろよ、俺は努めて相手を落ち着かせることに専念する。「何か手掛かりはないのか?」居場所が特定できそうなものはないか。なんでもいい、何か小さな情報でも提供してもらいたい。
 俺の申し出に、『情報つったって』窓なんてないし、健太は困惑した声を漏らす。移動しているんだろう。砂粒をすり潰すような足音が聞こえた。




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あきゅろす。
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