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01-13


 

「お前が犯人じゃないってことは、よく分かった。んでもって荒川達を巻き込みたくないのも、これまたよく分かった。
けどな、お前がやろうとしているのは単なる偽善だ。自己満足っつーのかなぁ。田山が犯人じゃない以上、また誰かがお前の名前を使って恐喝をするかもしれない。分かるか? この意味」
 
 
「分かりますよ。でもあの時、そうでも言わないと先生はヨウ達を呼んでいたでしょう?
当時の事情も聴かず、今度はヨウ達を疑う可能性がある。俺の名前を使われて起こった事件なだけに……、あいつ等を傷付けたくはないんですよ。疑われるのは誰だって気分が良くないですし、不確かな証拠だけじゃあいつ等を犯人と疑う価値もありませんよ。恐喝したのは不良、それだけでヨウ達を疑おうとしたでしょ? 先生」

 
 俺はともかく、ヨウ達には疑う証拠すら集まっていない。
 
 あるとすれば不良という点、そして俺と友達の二点だけ。まったくもって証拠不十分。新入生が俺が犯人じゃないって言ってくれたら尚更だ。
 なのにヨウ達を呼びつけるなんて筋違いも甚だしいじゃん。そりゃこの学校で不良といえば、パッと出てくる名前はヨウ達だけど、学校の問題児といえばキャツ達だけど、でもでも他にも上級生にも不良はいるんだ。不良って点だけでヨウ達だって決め付けないで欲しい。
  
 ぶうぶうと可愛くない反論ばかりする俺に、前橋は暫し間を置いて口を開く。


「田山、お前変わったな。善し悪しひっくるめて、お前は変わった」


 それはまったくもって見当違いな台詞だった。
 
 軽く瞠目する俺に対し、「去年の春頃は」素直で大人しい真面目くん、良い子くんぶっていた生徒だったのに、今じゃ自分の意見をよく主張するクソ生意気な生徒に成り下がりやがって。よく言えば度胸がついたってところか。前橋は軽く微苦笑を零す。
 担任は立てている肘を替えて、そよ風が吹き込む窓辺に目を流した。


「特に荒川と随分仲が良いみたいだからな。感化されてる面があるんだろ。例えば、素行の悪さとかな。お前等のサボり癖の酷さは舌を巻くもんな。よくもまあ、進級できたもんだ。ま、去年の担任のおかげ様だよな。田山?」

「う゛っ…、それは言い返す言葉も…ございませんが」


 あの時はお世話になりました。
 ホンッキで留年するかと…っ、こ、今年はサボり癖、ちょい緩和するよう努力します! 決まり悪くなって萎縮する俺に、前橋は構わず話を続ける。
 

「俺は別に不良だとか、優等生だとか、そういうもんに境界線を引くつもりはない」
 
 
 素行が悪かろうと、クソ生意気であろうと、良い子ぶろうと、教師視点から言えば、まだまだガキで単なる生徒だ。境界線を引いて区別しても教師なんざ務まらん。クサく言えば、各々の個性を見守ってこその教師だと俺は思う。
 まあ、お前等みたいなクソ生意気なガキ達は頭引っ叩きたくなるけどな。
 

 けどな田山、覚えておけ。


 此処は集団生活をする場で訓練場。社会性と協調性が求められている公共の場。厳しい話、はみ出し者は邪険な目で見られがちだし、こういった事件で真っ先に疑われるのは、はみ出し者だと言われる“不良”達だ。
 事情も聴かずお前を疑い、謝罪させようとしたことには俺に非がある。

 だが、疑わせるまでの経緯に至った、それまでの素行の悪さはお前自身の責任だ。

 日頃の態度がそういう疑いの眼を向けられざるえなかった。社会ってのはそういう冷酷な一面がある…、残念なことにな。
 

「お前の友達を思う気持ちも、社会は善意とは捉えず、寧ろ偽善行為と捉えられることもある。敬遠されてもしゃーないってこと、理不尽な事、この世の中じゃ多々あるもんだ。現にお前も感じてるんじゃないか? 教室の環境」


 ―――…それは、あんまり指摘されたくないことだ。

 
 だって俺自身も変わっていく教室の環境に、ちょいと戸惑いとか、困惑とか、居心地の悪さとか肌で感じているんだから。
 周囲にとって俺もきっとヨウ達と同類の“不良”の括りにされてるんだろうな。俺もさ、去年は散々不良のヨウ達、それこそヨウ繋がりの仲間達に嘆いてたんだ。気持ちは分かるさ。




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あきゅろす。
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