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08-17


 

「駄目じゃいヤマト。ケンとちっとも連絡がつかんぞい」


 開きっ放しの扉に立っていた魚住が携帯を切って戻ってくる。
 俺達が会話している間、ずっと連絡を取ろうとしていたようだけど電話に出ないらしい。コールは掛かるんだけど、一向に電話に出ないとか。何をしているのだと苦言する魚住の表情には珍しく焦燥感が滲んでいた。いつもはニタリニヤリしたり顔をなのに。俺の疑問を解決する如くこっそりとホシが教えてくれたんだけど、健太といっちゃん仲が良いのは魚住らしい。
 
 そういえば健太。
 魚住伝いで日賀野と出逢ったって言っていたな。クラスも一緒だって言っていたし、それなり二人は仲がいいんだろう。ちょいちょい健太から魚住の話を聞くしな。
 「なんじゃい」最近様子がおかしいと思ったら、ストーカーに遭っていたのかと魚住は不満げに毒言。
 相談されなかったことが不服らしい。物音を立ててテーブルに足を置く日賀野も苛立ちを垣間見せた。早く相談しておけばこんなことにはならなかったのに、と舌打ち。
 
 「あいつはいつもそうだ」去年俺と諍いを起こした一件もひとり胸に抱えていたと日賀野は鼻を鳴らす。
 どうせチームの負担になることなのに、なんで何も言わないのか。言えない理由が見えない。ブレザーのポケットから煙草を取り出す日賀野は、「相談されないのは俺の力量不足か」信用されてねぇな畜生が、二度ほど舌打ちを鳴らした。
 俺は内心で微笑する。なんだかんだでやっぱ日賀野も仲間も健太を大事にしている。ひとりの仲間として扱っている。こりゃあ会った際、皆からお小言を頂戴しても仕方がないぞ健太。もう少し信用して自分を曝け出してもいいんだ、お前は。

「プレインボーイ。テメェから連絡をつけることは?」

 ふっと飛んでくる質問。

 答えは否だと俺は首を横に振る。俺も何回電話を掛けなおしたか。
 怖いを連呼していた健太の安否が気になる。あいつ、すっげぇ動揺していたからな。携帯に視線を落としていると、俺の携帯を声を上げた。ビクリと驚く俺は慌てて画面を開く。表記された名前に、「ゲッ」俺は青褪めて声を漏らした。注目されている眼差しを裏切ってしまうようで申し訳ないけど、電話の相手は遺憾なことに俺の舎兄だったりする。

 やっべぇ、黙って来ちまったこと、もうばれたのかな。ど、どう説明しようか。
 俺は恐る恐る電話に出て、「もしもし」と相手に呼び掛け。同時に携帯を取り上げられてしまう。「あ」ちょっと、焦る俺を余所に日賀野はさっさと携帯機に耳をつける。


『おいケイ。今何処に「紛らわしい真似すんじゃねえミジンコ。イタ電なら余所でやれ」
 
 
 プッ、電話を切っちまう日賀野はフンと鼻を鳴らす。
 ちょっ…、アータ何してくれるんだよ! そんなことヨウに言っちまったら…、あ、ほら、また電話が。ハラハラしている俺を余所に携帯の着信が鳴る。しつけぇ野郎だと電話に出る日賀野は、「ンだよ」今暇じゃねえんだよと毒づいた。
 


「荒川、失せろ。時間が惜しいんだ。
あ゛? なんで俺が携帯に出るかだと? プレインボーイの携帯に俺が出ちゃイケねぇのか? いつ誰が何のために決めやがった?
ったく、今俺とプレインボーイはおデート中だ。邪魔するんじゃねえ。いいか、今度電話掛けやがったらはっ倒すからな。貴様はお呼びじゃねえんだよ。それともプライベートでおデートするのに一々兄貴様の許可がいるのか? 水差すんじゃねえよ阿呆が。一度地獄に落ちて来い」


「ひ、日賀野さんっ…」


「プレインボーイに代われ? そこは代わって下さいだろうが。誰に向かって口をきいているんだ? 人に物を頼む時はそれなりの頼み方ってのがあるだろうが。礼儀のなっちゃねぇ不良だな。ま、どっちにしろ代わってやらないんですが? 今日一日、プレインボーイは俺とおデートだ。いいな、邪魔するなよ。馬鹿のためにもう一度言っておく。邪魔するんじゃねえ!」



 苛立ちを発散させるかのごとく、日賀野は相手に嫌味毒言暴言を吐いて電話を切る。

 「スッキリしたぜ」意地の悪い笑みを浮かべ携帯を投げ放ってくる日賀野。携帯をキャッチした俺は心中で大号泣。
 なんでこの人は、こうも面倒事を起こしてくれるんだろう。後日、この出来事をフォローするのは俺だぜ俺! ヨウを宥めるのって超苦労するのに。なのにっ…、シクシクと涙を呑んでいる俺に日賀野はトドメを一言を刺した。
 

「この事件が解決するまで、ずーっとおデートしてくれるもんな? プレインボーイ」

 
 スンバラシイ笑顔で脅してきたよこの人! 断ったらフルボッコにしますってツラだなおい!
 引き攣り顔を作る俺は軽く額に手を当て、「まあ自分から乗り込んできましたし」今回は解決するまでおデートしますよ、と返事した。
 



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