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08-14




「つ、着いた」


 俺はででーんと仁王立ちしている目前の扉に生唾を嚥下しまくった。
 この先に荒川チームが最も苦戦を強いられた強豪チームがいる。そう、あの荒川庸一が仲間を率いても一度も勝てなかったチームがいるんだ。日賀野大和が率いるチーム、元は荒川チームと共に名を挙げていた変化球型頭脳派チーム。

 グーパーグーパー。
 空いた手の平を結んでは開き、深呼吸。大丈夫、停戦協定は結んでいるんだ。フルボッコ等々はない(筈)。決して仲が改善されたとは言えないけど、俺はあのチームに直接因縁を持っているわけじゃない。ひとりで来たんだぞ。丸腰もいいところだ。大丈夫、喧嘩とか売られるわけないじゃないか!

 向こうの良心を信じていざ、出陣。
 
 俺は取っ手に手を掛けた。で、ちょっち硬直。
 どうする、「ごめんください」と掛け声を掛けながら開けるか。それとも「たーのもう!」と言ってばばんっと扉を開けるか。いやいや此処はフレンドリーに、「んちゃ圭太だよ!」と片手を挙げて…、向こうにこのネタが通じるかどうかが分からん。ぐぎぎっ、白けられると調子ノリの心も折れるし。
 完全にヘタレてしまう俺は現実逃避の如く挨拶でうんぬん悩んでいた。そんな場合じゃないと分かってはいる、いるんだけど、俺にだって覚悟ってもんぐわぁあ?!

 持っていた取っ手が前に引っ張られる。
 「およ?」妙な声が頭上から聞こえた。恐る恐る顔を上げれば、で、で、出たー! 眉ピアスっ、ワタルさんの元親友で今はライバルの魚住昭―! 相変わらず若葉色とか、大層ド派手な髪をしてらっしゃいますね! 目に優しい緑だって使い方によっちゃ毒っすよ毒!


「おっひょ! なんじゃい。珍しい客人じゃのう」


 味気ない日常に刺激でも見つけましたぜ。
 みたいな顔をする魚住は逃げ腰になっている俺から目を放し、「ヤーマト」おもろい客人が来とるぞい、と声音を張った。扉の向こうから見えたのは、退屈そうに欠伸を噛み締めて破れかけのソファーに腰掛けている魔王様。
 ホシやススムとトランプをしているみたいなんだけど、なんだか退屈そうだ。

 「あー? おもろい?」誰だと視線を流してきた青メッシュ不良と視線がかち合う。
 途端に俺の本能は大絶叫。「お邪魔しましたぁあああ!」トラウマ魂という名の悲鳴を上げてBダッシュ。

「おーっとなんで逃げんるじゃい」

 魚住が首根っこを掴んできた。ゲッ、何してくれちゃってるの! 此処は駄目だ駄目だ駄目だなんだよっ、やっぱあの人は俺のトラう「プレインボーイじゃねえか!」ギャァアア、ジャイアン超嬉しそうだよ! こっち来たしっ、ちょぉおっ、放して! 魚住その手を放してくれぇえ!
 じたばたしている俺の首根っこを掴んでいる魚住は、ものすっごいあくどい顔を作るとそのまま店内に俺の身を投げる。

 おっとっと。
 バランスを崩してよろめく俺だったけど、次の瞬間ガッチンと硬直。
 め、目の前に俺のトラウマ、トラウマ不良がっ、ウワァアア! ヘルプっ、ヨウヘルプっ! こいつに何の呪文を掛ければ、恐怖心が拭えたんでしたっけっ! 犬…、犬ぶっころしゅんだっけ!? 兄貴、アーニキ!
  
 大パニックを起こす俺を余所に、「よっ」久しぶりじゃねえか、ニヤニヤリニタリと笑う青メッシュ不良はわざわざ会いに来てくれるなんて嬉しいぜ、と声を掛けてくれる。が、俺はちっとも嬉しくない。これっぽっちも嬉しくない。寧ろ悲しみの涙が出そうなんだぜ! 好き好んで会いに来たんじゃねえぞど阿呆。
 
 「えへへっ」遠慮がちに笑うと、後ずさりしながら出直してきますとヘタレモードを惜しみなく発動。
 「ナンセンスだろ」もう帰っちまうのか? 俺に会いに来たんだろ? 右肩に腕を置いて逃げ道を塞いできた。ち、ち、ちっけぇー! 至近距離だよおいっ、ジャイアン日賀野とこの距離っ、マジナンセンス!
 
 今日は舎兄がいねぇんだな、素朴な疑問に俺はお一人様で来ましたとぎこちなく返事。
 なるほど、ということはやっと俺の舎弟になりに来たのか。日賀野がニッタァと視線を送ってくる。こ、この人の辞書に諦めという文字はないのだろうか! 俺は日賀野の舎弟になんてならないゆーとるのに! 散々ゆーとるのに!
 



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