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08-12




「制服に鼻水はつけないでくれよ」


 ポケットティッシュは恵んでやりたいけど、あいにく両手がふさがっている状態。
 だから自分でどうにかしてくれと一笑。頑張ると答える健太は、「ストーキングされているなら」可愛い女の子がいいな、と冗談を口にした。可愛い女の子がこんなえげつないことするかよ、俺も冗談を返してチャリを飛ばす。
 
 その日、久しぶりに会った健太ともっと喋りたい気持ちがあったけれど、俺は早々と健太を家に送って帰宅した。
 騒動のせいでシズの土産のことをすっかり忘れていたから(めっちゃシズに落胆された。それはそれは世界の終わりを見たような顔をされた!)、二度も外出する羽目になったのは言うまでもない。余談として付け加えておくことにする。
 
 健太のストーキング問題が早く解決すればいい。
 願い思う俺の心配が見事に霧散するなんて、この時、知る由もなかった。

 

 三日後の水曜日。

 健太のことを気掛かりに思いつつ、いつもどおり学校生活を送った俺は、これまたいつもどおりヨウ達と元祖たむろ場のゲーセンで遊んでいた。

 とはいえ、俺は同窓会に行ったばっかだったから金欠気味。よってゲームをするんじゃなくてゲームする仲間を見たり、仲間と駄弁ったりして時間を過ごしていた。こうして普段と変わりない平和な日常を過ごしていたんだけど、俺の携帯が鳴ることによって平和は終わりを迎える。
 「誰からだろう?」携帯を取り出した俺はそれが着信だということに気付き、急いで画面を開く。山田健太という表記に目を見開き、俺は外に出るためゲーセン一階に下りながら電話に出た。

「もしもし健太か? ごめん、BGMが煩いから大声で頼む」
 
 俺自身も声音を張って相手に用件を尋ねる。
 けたたましいBGMのせいで健太の声がちっとも聞こえない。多分、俺の名前を確認するために名を呼んだみたいだ。「俺だよ」掛け間違えじゃないから、大丈夫だから、怒号に近い声で相手に呼び掛ける。


『―――…』


 何か健太が言ったようだけど、ゼンッゼン聞こえない。俺は空いた耳を指で塞いでワンモアと頼む。
 そしたら健太、掠れ声で俺に言ったんだ。怖い、圭太…、怖いよって。

 血の気と肝が冷えた。足を止めてしまう。
 「健太!」何か遭ったのか、いや遭ったんだろ、そうなんだろ! 携帯に向かって怒鳴る。どうしてもゲーセンじゃ声が届かなかったから、俺は急いでゲーセン外に出て健太に声を掛ける。携帯機から聞こえてくる健太の声はびっくりするくらい弱弱しくて、繰り返し怖いのだと呟いてきた。

 例のストーカーか。それで健太、参っているのか。
 俺は冷静になれと自分に言い聞かせ、「今何処だ?」傍に人は居るのか? 何が遭ったんだっと努めて優しく聞く。健太は本当に参っているらしくて、俺の質問が受け取れないのか、『分からない』何も分からないんだと言うばかり。これじゃあ埒が明かない。
 
 せめて居場所だけでも聞こうとするんだけど、健太は怖いバッカ言うんだ。気が動転しているんだろう。俺の声なんてまるで聞いていない。
 けど俺の声が途切れると、必死に名前を呼んでくる。恐怖心と懸命に闘っているらしい。だから俺は呼び掛けに答えてやるんだ。大丈夫だから、声は届いているから、どんな無茶な相談でも乗るから。呼び掛け続けると安堵したような声、次いでプッツン、ツーッ、ツーッ、ツーッ。

「はい?! ちょ、健太! 健太!」

 ここで電話が切れるとかないぜ!
 俺の携帯の充電は大丈夫だしっ、ええいもっかい電話だ! アドレス帳から電話番号を呼び出してコール。だけど何度電話しても出ない。ああくそっ、どうしよう、俺の方が焦ってきたじゃないか! どうする、何度電話しても相手は出ない。
 
 だけど俺じゃあ健太が何処にいるのか、この三日間どうしているのか、それさえも分からない。
 一度家に行くべきなんだろうけど、あいつが家にいるかどうか。あいつの家はゲーセンから遠い。最短ルートで健太に会いたいんだよ俺は! ってことは…、健太の近状を知っていそうな身近な人物達のところにしかなくて。

 そっちの方が近…っ、ちかっ、うわぁああああ! くっそぉおおおっ、迷っている場合じゃないんだよど阿呆! 男見せたれ、トラウマなんてクソ食らえぇええ! 




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