それは嫌がらせか、ストーカーか
◇
微妙に盛り上がった昼食会後、俺と健太は流れに任せて同窓会が主催するボーリングに参加した。
直行で帰りたかったんだけど参加している奴等は全員行くって言うから、此処で帰ってしまってはKYだと思って渋々参加。あんま話したことのない連中と一緒にグループを組んでボーリングを楽しんだ。
わりと楽しめたとは思う。久しぶりに健太とはしゃげたしな。
だって俺達、中学時代は田山田だったんだからな! 健太は山田山って言い張るけど。おかげさまで始終、俺と健太はノリツッコミボケをかましていた。どっかの誰かさんは鼻で笑ってくれたけど、無視だ無視。金を払ったのは自分だぜ? 俺自身が楽しまないと損損!
二次会はカラオケだったんだけど、これはパスした。
ボーリングの後のカラオケが苦ってわけじゃなくて、もう充分に同窓会を楽しめたからだ。
武藤や東島は行くらしく、声を掛けられたんだけどやっぱパス。なんか気疲れしちまったんだ。不良に会う前の俺だったら喜んで二次会にも参戦していただろうけど、俺はあの頃の俺じゃない。楽しく過ごせても、中学時代の奴等とはどっか波長が合わなかったんだ。
悲しきかな、中学の頃は仲が良かった武藤や東島とも若干波長が合わなかったり、だ。楽しくないってわけじゃないけど、余計な気を回してしまう。俺がそう思うんだから、二人もどっかで感じてるんじゃないかな。波長のずれを。
多分これは俺が劇的に変わったせい。
取り巻く環境の変化と知ってしまった不良の世界、自分の居場所、価値観、全部が変わってしまった。俺はあの頃の俺じゃない。気兼ねない友達だと思っていたけど、変化することによって気兼ねする友達に変わっちまうもんなんだな。
結局中学時代の友達で、気兼ねしないっていえば健太ぐらいなもんだった。中学の親友って立ち位置は山田健太だけなのかもしれない。
「くぅーっ、疲れたな。二十年は同窓会に行かなくてもいいや」
大きく伸びをする健太が肩凝ったと首の関節を鳴らす。
同調する俺はボーリング場から出ると、真っ先に空を仰いだ。薄っすらと空に紅が掛かってきたな。時間を確認すると五時過ぎ、まあまあな時間だな。門限があった小学生時代はそろそろ帰らないといけないなんて思うんだけど。
「これからどうする?」健太が視線を流してきた。「折角会えたんだ」もうちっとブラっとしないか? と個人的なお誘いをしてみる。
名案だと健太は指を鳴らした。
よーし決まりだな。んじゃ早速チャリを取ってくるか。俺達は駐輪場に向かう。すれ違い様、二次会に行く面子とすれ違った。その中に睨みをきかしてくる女子がいたけど受け流す。ずいぶん俺も嫌われたもんだよな。俺が何したって言うんだよ。
フンと不機嫌に鼻を鳴らす俺に苦笑いを零す健太は、「お前もよくやるよ」と呆れ気味に感心してくる。
だから向こうが喧嘩売ってくるんだって。ぶすくれながらチャリの鍵を出す俺だったけど、チャリのカゴの微妙な変化に気付いて動作を止める。カゴの中に紙くずが入ってらぁ。なんだよ、此処に来た時は入ってなかったんだけど。
「俺のチャリは屑篭か! ったく、なんだよこれ」
「はは乙っ、出会い系関連のチラシでも入れられたのか?」
「だったら間に合ってるって」俺は丸められている紙くずを取って何気なく中身を開いた。
【楽シイ時間もソロソロ終ワリ。必ズ迎エに行キマス】
グシャッ―。
俺は大慌てでそれを丸めた。
健太、見てないよな。見ちゃないよな。見ちゃ「お、おわり…?」お、遅かったか。
血の気を引かせる健太は顔面蒼白で俺を見つめてくる。
そんな捨てられた子犬のような顔…とも言いがたいけど、鳩が豆鉄砲食らったような表情を俺に突きつけられても困るって健太。俺だって怖いよ。わざわざ俺のチャリのカゴに入っていたんだし。
「く、くる。きっとくる」
どっかで聞いたことあるホラー映画のフレーズを歌った健太は、なんだよもうぉおおおお! と叫んでその場にしゃがんでしまう。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!