01-12
えーっと、集まった情報を整理してみる。
不良で舎兄弟っぽかった。リーダーっぽい人の一人称がちょっとおかしい。うーん、それだけの情報源じゃ犯人が割り出せないな。不良ならすぐに特定できそうだけど。
思考をグルグル回していると、「荒川達を呼んでみるか」もしかしたら面白半分で田山の名前を使ったのかも、前橋がそんなことを口走った。
だ・か・ら、まだ犯人が明確に決まっても無いのに決め付けるのは如何なものかと思いますよ? 先生!
軽く舌打ちをする俺は、勢いよく席を立って「すみませんでした」深々と頭を下げた。んでもって、「以後恐喝なんてしません」キッパリと言い切って、前橋にこれでいいですか? と愛想笑い。
「俺、べつに犯人でもいいですよ。俺が犯人じゃないと、仲間が疑われるみたいですし。
なら、俺、べつに犯人でもいいです。だからヨウ達を疑うのはやめて下さい。あいつ等、不良で馬鹿だけど、こんな馬鹿なことする連中じゃないですから。で? 俺はこれから何をすればいいんですか? 反省文でも書きましょうか? 記憶にない犯行ですんで半枚くらいしか書けないでしょーけど」
「た、田山、落ち着け。今、お前、自分が犯人じゃないって言っただろ。あいつ等を呼ぶのも、事情を聴くだけだ」
「俺の事情も聴かず、即謝罪させようとした先生を信用するわけないじゃないですか。一応、俺の名前が証拠として挙がってるなら、それで犯人にすればいいじゃないですか」
俺の名前のせいでヨウ達が巻き込まれるなら、俺一人で十分だ。
この場を終わらせるためにも俺は、犯人でいいの一点張り。
聞き分けのない生徒に前橋はこめかみを擦っていたけど、俺も譲るに譲れない。
だってさ、気分悪いじゃんか。俺だって犯人扱いにされて気分が悪いっつーのに。揉めに揉めた結果、チャイムが鳴ったことで終止符が打たれる。特別今日は早く授業が終わる日、話し合いはチャイムによって半強制的に終了するカタチとなった。
犯人は俺じゃなかった。
その事実は受理されたみたいだけど、俺の聞き分けの無い態度のせいで話し合いは延長戦になったみたいだ。「放課後な」と、前橋に言われた。放課後も何も無い。俺は犯人でいいって言ってるのに…、あーくそっ、なんでこんなメンドクサイことになったんだよ!
偽田山圭太のせいだ!
お前のせいで新学期早々腹立つ面倒な事に巻き込まれちまってるぞ、俺! 誰だよ、俺の名前使った阿呆! 俺に謝れっ、土下座して謝れ! 土下座しても腹の虫がおさまりそうにないから、メシも奢れよー! 阿呆ー!
内心超苛々しながら、俺は前橋と共に教室に戻った。
係り決めは終わっていなかったらしく、半分くらいしか名前が埋まっていない。前橋は溜息ひとつ、んでもって席に戻る俺に溜息ふたつ。俺だって溜息つきたいよ、ドチクショウが!
俺の帰還に同じ班のヨウと利二が、早速事情を聴いてきたけど、「ちょっとな」苦笑いで誤魔化した。
今はまだ、なんとなく気分的に話したい気分じゃなかったんだ。
帰りのSHR中はひたすら、遠い窓の向こうを眺めて風と戯れていた。なんで、ほんと、新学期早々こんなことになっちまうのかなぁ。ガッデムだ畜生。はぁーあ、溜息ばっか出る。
簡単な帰りのSHRが終わると、生徒達が下校を始める。
「ケイ」ヨウがたむろ場に行こうって誘ってくれたけど、「後で行く」ちょっとまだ学校にいなきゃいけないんだと俺は失笑交じりに答えた。ちゃんと事情は説明するから、俺の言葉にヨウは間を置いて頷いてくれる。
「ケイ、待ってるからな」
二つの意味で俺に待ってる、と言葉を掛けてくれる優しい不良に、「おう」俺は目尻を下げた。
更に利二が俺の背中を叩いて、「今日は残念ながらバイトだ」だからメールしろ、心配性のジミニャーノからもお言葉を頂戴した。
友達の気遣いに、ささくれ立っている気持ちがちょっと落ち着く。
うん、やっぱいいよな。こういう風に優しくされるって。
心配を掛けたことには申し訳なく思うけど、でも嬉しかった、二人の気持ち。友情に乾杯なんだぜ! ちなみに光喜と透からも、「どんまい」って慰めを貰った。うん、どんまいじゃなくって別の言葉で励まして欲しかったな! 嬉しかったけどさ。
ちょっとだけ表情を柔和にさせることに成功した俺だけど、教室に誰もいなくなると、あ、ちげぇ…担任と俺だけになると、それも果敢なく消えちまった。
自分の席に着いたまま、頬杖ついて窓の外を眺めていると、前の席に前橋が腰掛けてきた。
流し目に見た俺だけど、すぐ視線を元に戻した。
「あのなぁ」俺の素っ気無い態度に前橋はメンドクサそうな溜息をついた後、「事情も聴かず疑って悪かったな」詫びを口にしてきた。建前なのか、本音なのか、俺には判別できなかった。
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