08-08
それこそチームに相談すれば良かったじゃないか。
日賀野に相談すれば、きっといい知恵を貸してくれる筈だぞ。あいつは策士だから、絶対解決法を見つけてくれると思うんだけど。
俺の助言に健太はできないのだと吐息をつく。チームには相談できないと頑なに助言を拒む始末。理由を尋ねると、「おれ個人のことで」チームに迷惑を掛けたくはない。健太は力なく答えて、食べかけの海草サラダに目を落とす。
「なにせキャラに癖のあるチームだから、相談しようにも…なあ?」
健太の言葉に俺は日賀野チームの面子を思い出してみる。
ジャイアン日賀野にウザ口調の魚住。変に笑い上戸の副リーダー。確かススムだったよな。苗字分かんないんだけど、シズを怒らせる天才だったってのは憶えている。それから打倒シズ(タコ沢)と燃えているイカバに、妙にカマっぽいホシ。ちょっぴり二次元に夢見すぎているアズミに、ヨウのセフレだった帆奈美さん。そして玉城紅白双子くんか。
あー面子としてはどいつもこいつも難癖あるけど、帆奈美さんとか話しやすそうじゃないか。彼女に同席してもらって日賀野に相談するってのもありだと思うけど。
まさか日賀野達に信用が置けないってわけじゃないだろ。
嫌味っぽく言えば、一度は俺と絶交してまで日賀野側についた男なんだ。健太が相談できる要素は満載だと思うんだけど。
そう言っても健太は苦笑いを零す一方。
「チームとしては」必要とされているだろうけど、個人としてはどうだかな、自虐的に肩を竦める。どうしても一個人の問題をチームに持っていけないのだと健太は吐露した。特に自分の場合、みみっちい事件といえば事件、喧嘩が起きたわけではない。微妙な嫌がらせをされているだけであって、チームに支障は無いのだと呟く。
……健太、チームに打ち解けているようで、完全にチームに打ち解けているわけじゃないんだな。
なんっつーか、少し前の俺を見ている気分。
普段は平然とつるんで一緒に駄弁るんだけど、いざとなったらチームと距離を置いて自力で解決する、みたいな。
健太は未だに調子ノリを封印しているみたいだし。その調子ノリを見せたら日賀野達に絶対ウケると思うんだけど。日賀野なんておもろい大好き不良なんだぞ! 俺はそのせいで執拗に舎弟になれと以下省略。
確かにこのストーカー問題は健太自身の問題かもしれないけど、でも、ひとりで悩むよりかは誰かに相談した方がいいと思う。
「俺に相談したのを契機に、もっと身近にいるチームに相談してみろって。お前の居場所だろ? はばからなくてもいいじゃないか」
「簡単に言ってくれるなよ。そりゃ…、信用していないわけじゃないし。チームの皆は大事だけど。女みたいな相談じゃないか、これ。アキラさんの耳に入ったら爆笑されそうだし。ヤマトさんに相談したところで、鼻で笑われそうだし。ススムさんに関してはツボられて…、はぁあ」
頭上に雷雲を作る健太は、ほとぼりが冷めてくれるのを待つしかないのだと口を結んだ。
いやいやいや視線といい、悪質なお手紙といい、ほとぼりは今しばらく冷めないと思うんだけど。
悪化するかもしれないじゃんか。
冷静に考えてみてもさ、健太はかの有名な日賀野チームの一員だぞ。日賀野達個人に私怨を持っている不良達も沢山いる。名を挙げているってことはそれなりの功績を残しているということ。功績の代償は人の敗北って決まっているわけだ。敗北した不良は少なからずも自尊心が傷付く。潔く身を引く奴もいれば、この恨みを晴らしてやるぜと言わんばかりに復讐しようと思い立つ輩だって出てくる。
俺の知らないところで、健太は沢山の喧嘩をしてきたに違いない。恨みのひとつやふたつ買ったっておかしくないさ。
健太個人でこんな嫌がらせを買うのは、やっぱチームが売り買いしているであろう喧嘩に元凶が行き着くと俺は思うんだけど。
「お前の気持ちは分かるよ、健太。でも、なあなあにしておけばお前が大事にしているチームに、追々厄が降りかかるかもしれない。それを考えれば日賀野だけにでも言うべきだよ」
もしもお前に何かあれば、あの男は必ず腰を上げて動き出す。
だってあいつは犬猿の仲に位置付いているヨウでさえ認める仲間想いな男。やり方が狡かろうが卑怯だろうが姑息だろうが、仲間がピンチになったら形振り構わず動く。健太だって例外じゃない。それだけ日賀野の仲間意識は高いんだから。まあ、他者の慈悲はこれっぽっちもないんだけど。
「何か遭ってからじゃ遅いぞ」俺は相談を強くすすめた。
「した方がいいのかなぁ」健太は割り箸を持ってひょいっと熱々のホルモンを取ると、息を吹きかけて口に放る。唸り声を上げて噛み締める健太は、なーんで自分がこんな嫌がらせを受けなきゃいけないんだと眉根を下げる。
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