[携帯モード] [URL送信]
08-07



 
 苦虫を噛み潰すような表情を作る俺に、「ぷははっ」健太は声を上げて笑う。
 

「舎弟に舎兄、両方の役を同時に買っちまったんだ。そうなるのも無理は無いだろ? 大変だな、圭太も。荒川の舎弟として名前を挙げたお前が、今度は荒川の名前なしで作り上げた舎兄弟を本物にするなんて。ほんと、どんだけカッコつけたいんだよ」
 

 俺の近況報告を笑う健太は、楽しそうな毎日じゃないかとタン塩を取って皿にのせる。
 楽しいっていうか苦労する毎日だって。気兼ねなく健太に愚痴った俺は、「お前は?」どうなんだと注文したビビンバを店員から受け取り長匙を持つ。

 一変して表情が曇る健太を俺は見逃さなかった。
 何かあったのか、中身をかき混ぜながらさり気なく健太の心に触れてみる。まさか日賀野と喧嘩したわけじゃないだろう。あいつと喧嘩したらどうなるか? 答え、俺のような日賀野不良症候群を持つことになります。健太は俺と違って純粋にあの性悪日賀野を慕っているから、喧嘩しているとかそんなのは想像もつかないんだけど。
 「上手くいっていないのか?」掬ったビビンバを冷ましながら、俺はそれを口に入れて頬張る。
 「いや」上手くいっているよ、チームは楽しいんだと健太は海草サラダに箸を伸ばす。
 
「悩みが無い。そう言うと嘘になるんだけどさ」

「勿体つけてないで話してみろって。俺、べつにお前のチームに告げ口する気はないぞ?」
 
 力なく笑う健太は海草を箸で摘み上げて、「見られているんだ」静かに呟く。
 
 面食らう俺を余所に健太は徐々に胸の内を明かしてくれる。
 最近、誰かに見られている気がするんだと。いや見られている。これは確信している。確信するものを手に入れてしまった。健太は一抹の恐怖心を俺に曝け出した。「見られている?」ストーキングでもされているのか? 健太に詳細を話してくれるよう頼む。

 健太はそっと口を開いて教えてくれた。

 それは帰路を歩いている時、学校に登校している時、たむろ場を後にしてひとりで街を歩いている時、ふっとした瞬間に感じる悪意の視線。まるで体中を嘗め回されているような視線を日夜感じている。
 一日二日前の話ではない。此処暫くそれが続いているのだと健太は苦々しい面持ちを作り、摘んでいた海草サラダを皿に戻す。そしてブレザーのポケットから四つ折りにされている紙を俺に差し出した。
 匙を置き、俺は紙を受け取ると中身を開く。目を見開いた。


【必ズ迎エに行キマス】


 ワープロで打ったであろう、印刷された一行文字に俺は身の毛がよだつ。
 なんだよこれ。気持ち悪い。まんまストーカーのすることじゃないか。俺は健太に視線を流す。掻いた胡坐に視線を落とす健太は、「郵便受けに入っていたんだ」自分宛ての手紙だったのだと苦言し、誰に愛されちまったんだよおれ…、と額に手を当てた。
 「いつからだよ?」腫れ物を触るような声で問い掛けると、「二週間くらい前から」もう病みそうなのだと健太は重々しい溜息をつく。んで、俺の両肩をガシっと掴み、ぐわんぐわん揺すってきた。
 

「怖くね怖くね怖くね! もぉおお、おれ、ホラー小説の世界にでも飛び込んじまったのか?! って思うほど怖くてさ! 圭太ぁあああどうしよぉおおお! 迎えってどこだよ! 天国? それとも地獄?! おれ、そんなに悪いことしちゃないっ、ちょっち悪ぶった地味くんだぜ!」

「お、お…落ち着けって!」

「落ち着けるかぁああ! おぉおおおれ! 女の子にモテるならまだしもっ、得体の知れない輩にっ…ぎゃぁああああ怖過ぎる!」

 
 ずっと我慢していたのか、健太が半狂乱になって俺の体にしがみついてきた。

 ガタブルで死にたくないと震えている。どんだけお前は我慢していたんだよ。どうどうと宥めながら俺は相手の体を押し返して手紙を一瞥、四つ折りにして健太に返しながら、誰かに相談はしなかったのかとクエッション。
 こんなこと誰にも言える筈ないじゃないか、健太は唸りながら紙を受け取り、ポケットに捻り込んだ。




[*前へ][次へ#]

7/29ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!