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08-04




「あんた、三年も筆を触ってないんでしょ! なのにっ、あんなにっ、あんなにっ…、ムカつく。あんたって本当にムカつくわよ! 不良のパシリしてるくせに! ダサ山! あんたみたいな男っ、彼女すらできないわよ!」

「ザーンネン。俺は荒川の舎弟です。そしてご心配どうも、俺、彼女持ちですから」

「見栄張ると後で泣くんじゃないの?」
 
「あっはっはっは。真実しか述べていないんですけど? 俺には貴方様とは違って超可愛い彼女がいるんですぅ。彼女と貴方様の性格を比べれば月とすっぽん! 天使と悪魔! 女神と悪女!」


 「うわぁあ圭太」馬鹿正直に言いすぎだろ、健太のツッコミは俺の耳には届かない。
 
 うぇっと毒舌の波子に舌を出し、腹が立つとキャツは俺を睨んでくるばかり。
 ダサイ格好だと毒づいてくる毒舌女に、じゃあ普段の学生はダサイということですね? と減らず口を叩いてみせた。なにせ、普段の学生さまは制服を身に纏ってらっしゃるのですから! それともなんですか、貴方様はダッサイ制服を着ず、私服で登校していらっしゃるとでも? それこそダサイのお笑い種だと思うのですが!

「たまたま制服で来た。それだけでダサイだのなんだの人権を侵害してもいいのかどうか、俺には分かりませんね。ああ、分かりません」

「なによ、不良のパシリしてるくせに。あんた不良グループに入って、態度をでかくしてるだけなんでしょ?」

「俺の何を知っていらっしゃるんですか? 俺に一々突っかかるのはやめてください。俺も毒舌と相手するほど暇じゃないんで」

 俺が嫌いならそれで結構。どうとでも陰口を叩けばいい。相手にしませんので。
 火花を散らし合い、フンッと鼻を鳴らして俺は健太の腕を取ると、ずんずん足音を鳴らしてキャツから離れた。

「ムッカツク―――ッ!」

 ヘボのくせにっ、絶叫を上げる毒舌の波子なんて無視無視。そう、むしがいちばん…、ウワァアアできるかぁああ! 俺は聖人じゃねえぞ! 悟りなんて開けるかぁああ!
  
「腹が立つ―――ッ!」

 俺は俺で声を上げて大きく地団駄を踏む。
 あいつがクラスメートだってことをすっかり失念していた! ああぁあ、あいつが来るなら、マジで同窓会になんて来なきゃ良かったぜ。健太とランデブーした方がずっといい! もう抜けちまいたいっ、胃袋がストレスで悲鳴を上げてきたっ!
 怒りに燃える俺は握り拳を作って帰ると踵返した。「ちょっ!」まだ集合したバッカだぞ! 健太に全力で止められてしまう。
 

 こうして帰ることに失敗した俺は、クラスメート共に昼飯を取る予定になっている焼肉店に行くわけなんだけど。

 俺の機嫌は低空飛行も低空飛行。神様とやらは俺のことが本当にお嫌いらしい。食べるテーブルは三席に分かれるんだけど俺と毒舌の波子、三分の一の確率で物の見事に同テーブルになったんだ。席こそ遠く、着席する人がバリケードになってくれているから嬉しい限り。
 だけど斜め前にキャツの姿が映る。それだけで俺の機嫌は不そのものだ。視線がかち合うとお互いに舌を出して、そっぽ向く始末。もうあいつとはぜってぇ話さないぞ。
 
 一部始終傍観していた健太は、微苦笑を零しながら俺に割り箸を回して、「お前いつの間に」勇者になったんだよ、とおどけてくる。

 馬場波子は中学時代は自他共に認める苦手女。喧嘩を売ってはいけない、関わってはいけない、反論してはいけないの三原則が暗黙のルールであったというのに、それを敗れるなんてお前は勇者だ。

 健太は隣で不貞腐れている俺の背中を叩く。

 「煩いなぁ」俺だって好きで勇者してるんじゃない、向こうが喧嘩を売ってくるから買っているだけだと唇を尖らせた。




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