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08-03




「ヤマトさんやアキラさんの喧嘩っ早さに、こっちは飛び火を食らう一方。ったくもう、勘弁して欲しいぜ」

「ははっ、俺もだよ。ヨウやワタルさんの喧嘩っ早さで何度私怨を買ったか分からねぇや。ッ、アウジ!」


 突然上がる俺の悲鳴。
 
 目を丸く健太はどうしたのだと声を掛けてくるけど足…、今、誰かに足を踏まれっ…、俺は犯人を捜すために視線を流した。
 で、引き攣り顔を作るわけだ。俺の足を踏んだのは元クラスメートで日向女子に位置づけられる、俺や健太の最も苦手としている女。毒舌の波子! 出たな、俺の疫病神! 可愛らしい桃色のワンピースを身に纏っているけど、その色に反して毒舌はおどろおどろしいオーラを放っていた。
 
 「邪魔」ヘボ山のくせに、と毒づいて睨んでくる某毒舌女は開口二番に俺の身なりをダサイと称してきた。
 俺はピキッとこめかみに青筋を立てる。あいっかわらずいけ好かない女だ。いっくら幾多に渡って怖い不良をノリで回避してきた俺でも、こいつの誹謗中傷にだけはっ、毒舌にだけはっ、アァアアアア、胃に穴があきそうであーる!

 どうする? 此処は反論するべきか、それとも完全無視を決めるべきか。こいつと関わってイイコトがあったか? なあ?!


「今日あんたが来るなら来なきゃ良かった。ダサイが感染る」


 決定。
 
 こいつは完全無視だ。相手にするだけ俺が馬鹿みる。
 「健太行こうぜ」此処は空気が悪い、フンと鼻を鳴らして俺は場所移動開始。「え、おう」戸惑いながら健太が後を追って来る。
 だがしかし、毒舌の波子が俺の前に回ってきた。眉根をつり上げる俺に、ケッと睨みを飛ばす毒舌の波子。完全に狼狽している健太。この三つ巴図をなんと説明すればいいのだろうか。
 何無視してくれているんだとキャツがほざき始めた。聞こえないとばかりに俺は右の耳に指を突っ込んで、つーんとそっぽ向く。

「お、おい圭太。らしくないって」
 
 空気を読んでいる健太は、そういう態度を取れば相手がどうなるのか分かっているだろ、だろだろーん、とノリで空気を緩和しようと努めた。
 「ウッザイノリよしてくれる?」調子ノリキラーの発言によって健太はピタッとおとなしくなる。というか胸を抉られたような気分になったらしい。やっぱこの人苦手だ、と胸を押さえている。気持ちは分かるぜ、健太!
 
 と、耳の穴に指を突っ込んでいた腕を毒舌の波子に取られてしまう。
 なんだよとばかりに視線を流せば、キャツは湿布を貼っている俺の右手の甲を見据えて眉をつり上げていた。「この手で…」あの字を書いたの、そうなの、だったら喧嘩売ってるんだけど、とかなんとか独り言をブツクサブツクサ漏らしている。
 手を払ってだからなんだと無言で相手を睨めば、「田山。あんたでしょ!」と話題を吹っかけられた。

「先日あった展覧会に出展していた四時歌を書いたの! ひなのの学校が出展していたあれ、あんたが書いたんでしょ!」
 
 ゲッ、毒舌の波子に見抜かれている。
 堤さん、ちゃんと匿名で出展してくれたんだよな? メールで念は押したんだけど。
 
 内心でかるーく冷汗を流しつつ、表向きの俺は何の話かさっぱりだと両手を挙げた。
 
 俺は三年前に習字をやめている身分、しかも右手を怪我している。筆なんて持てない。堤さんの出展話だって断った。言いがかりもいいところだと、返事する。「嘘ね」あの子に詰問した時の態度といい、あの字体といい、あんたしかいないと毒舌の波子は指差してきた。

 何年忌々しいあんたの字を見てきたと思うの、ゴォオッと内なる炎を燃やして握り拳を作る毒舌の波子に俺は若干押される。執念って怖いな、まだ先に級を取ったことについて根に持っているなんて。




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