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リトルブラザーの本音


 

 1年2組。
 
 達筆な字で書かれているクラス表記を見つめる。確かこのクラスだったな。
 俺は教室を覗き込んだ。まばらにいる生徒、主に女子ばっか。時々日陰男子が見受けられるけど、大半が女子。机でグループを作って駄弁っている。男子はクランドでサッカーやらバスケやらで汗水を垂らしているんじゃないだろうか。

 教室を見渡しているとつくねんと机に伏している生徒を発見。外貌は日陰男子と変わらない。
 でも、俺には分かる。そいつはなんちゃってジミニャーノなんだと。ピアスが直射日光によって煌いているんだからな。日向ぼっこをして寝ているわけじゃなさそう。

 一呼吸つくと俺は後輩クラスにズケズケと侵入する。
 
 教室にいた生徒が誰だとばかりに注目してくるけど無視。
 俺が荒川の舎弟だって分かった女子グループが、ひそひそ話を始めるけどそれも無視。気にするな、何も気にするな俺。今、気にするべき相手はひとりなんだからな!
 
 目的地に着いた俺は机に撃沈している弟分を見下ろし、眉を軽くつり上げて飲みかけの缶を机上に置く。
 音に反応したキヨタは、不愉快そうに顔を上げた。俺の置いた缶を見つめ、次いで腕を辿って視線をこっちに流す。「ぬあぁあ!」ケイさんっ、悲鳴を上げるキヨタが体ごと身を引いた。
 逃げ腰になるキヨタに俺は間髪容れず、「選択肢をやる」相手を見据えた。


「今すぐ表に出て俺とタイマン張るか。それとも放課後にタイマン張るか。二択、お前に選択肢をやる。どっちがいい?」
 

 「へっ」間の抜けた声音を漏らすキヨタに、「二度は言わねぇ」どっちがいい? 再三再四、弟分に尋ねる。
 突然のタイマンにキヨタは完全に動揺したらしく、「え」それって俺っちがケイさんとっ、いやでも、右に左におろおろ。俺の喧嘩売りにきました発言にうろたえている。ガンッ、俺は相手の机を一蹴した。

 途端に硬直するキヨタ。周囲の生徒もこっわいと冷汗を流している。
 態度が悪ければ悪いほど悪く見られる。百も承知だけど、俺は構わずキヨタの胸倉を掴んでどっちだと詰問。頭が真っ白のまま放課後と答えたから、じゃあ放課後な、と胸倉から手を放す。
 置いていた缶を手に取って、「忘れるなよ」今日の放課後に迎えに来るから、と吐き捨てた。次いで逃げるなよ、と釘を刺しておく。


「お前が合気道をしていようが、チーム内の誰よりも強いだろうが関係ねぇ。俺はお前に喧嘩を売った。だから俺は逃げない。手腕がなくて俺は逃げない。―…お前も逃げるなよ」
 

 矢継ぎ早に伝えて、俺は残り少ない缶の中身を飲み干すためにそれを傾ける。

 飲み終えると俺は集まる視線もひそひそ声も振り払い、キヨタに一瞥もせず、教室を出た。かーんなり後輩に避けられている感はあるけど、心を鋼鉄にして自分の教室に向かうことにしよう。腹減った。俺、昼休みだってのにまだ昼飯食ってない。胃袋は緑茶で満たされている。
 けど時間も残りわずかだしな。あーあ、弁当食う時間なんてなさそうだぞ。サボるかなぁ。こういうことを考える時点で俺って上辺真面目ちゃんも何もクソもないよな。どーせヨウとモトはサボるだろうしな。あの空気からして。


「ケイさん!」
 

 俺は足を止める。
 廊下に飛び出してきたであろう弟分は、「やっぱり」今がいいと変更を申し出てきた。放課後まで俺とのタイマンで悶々と悩みたくないんだろう。空になった缶を投げてキャッチする俺は振り返ることなく、「じゃあついて来いよ」肩を竦めて歩みを再開した。
 



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あきゅろす。
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