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07-26


 

「オレはケイみたいに、誰彼に一線引く。なんてしねぇんだよ。参ったか」
 

 後悔しながらも弱い姿も見せられる、これはオレの自慢だ。
 絶大の信頼を俺に寄せてくる後輩。つい噴き出して、「それでこそいつものお前じゃん」俺は軽く両手を挙げて参ったポーズ。んでもって、「好敵手ねぇ」俺っていつからそんな美味しい存在になったんだか、肩を竦めて缶を持ったまま腰を上げる。
 「んだよ」一方的な好敵手じゃ寂しいぜ、変にライバル視してくるモトに俺は一笑。「俺の中じゃお前って」クソ生意気でご都合主義な後輩だから、と毒づく。
 
「なんだよご都合主義って」

 いつオレがご都合主義になったよ、と膨れ面を作るモト。
 「ゲーム話になると」いっつもお前は俺を先輩扱いしてくるじゃないか、だからご都合主義なのだと指摘してやった。次いで、「不良相手に」面と向かってこんなことを言うなんてな…、俺も変わったもんだと独り言を零す。

「環境が変われば、周囲の見方も変わる。時々俺は周りの眼に臆することがあるよ」

「それ。オレ達と一緒にいることが嫌ってことか?」

「逆。地味くんが不良達といてもいいのか、周りの評価を聞いて劣等感を抱く俺がいるわけだ。そんだけ居心地がいいってことだよ」
 
 自分だって不良のくせに、何を真面目腐っているのだとモトは呆れてくる。
 まったくだと同調し、「少しは一線引く悪い癖」改善したと思わないか? と、したり顔でモトを見下ろした。瞠目するモトに、「俺だって負けてないだろ?」さっきの仕返しだと言わんばかりの笑みを浮かべる。負けず嫌いめ、モトに毒づかれた。へいへい自覚ありですよ。

 缶を傾けて喉を潤した俺は、「まあ」せいぜい頑張るこったと片手を挙げ、壁から背を離して踵返す。
 好敵手は応援してますよ。旗振って応援してやりますよ。そりゃもう全力で。ノリよくモトに告げて、「残念だけど」お前のカッコつけ計画は俺が泡にさせてもらった、首を捻り、口角をつり上げる。

 キョトン顔を作っていたモトが俺の体越しに向こうを見やり、ゲッと声音を漏らす。
 ニヤリニタニタ笑う俺に、「サイアク!」アンタには慈悲がないのかと怒声を張った。


「おやおやモトさん。勿論、慈悲に決まっているじゃないか。調子ノリはいつだって慈悲深いのですよ」
 

 だからちゃーんとあいつを呼んであげたんだ。

 いつからあいつがそこにいたか知らないけど、今度は本命のあいつに決意表明するこった。俺はわざとらしくんでもって嫌味ったらしく肩を竦め、「精一杯後悔しな」好敵手の思いやりを受け止めろよ、とおどける。嫌がらせをするのも好敵手の勤めだ、なーんて調子付いてもみた。

 後悔も後悔しそうだと嘆くモトだけどその声音には笑いが含まれている。
 モトの方は大丈夫そうだな。んにゃ、それどころか俺もヨウもうかうかしてらねぇな。あいつの決意からして、ぜってぇ超されるぞ。
 俺は校舎に戻りつつ、すれ違い様、「なあモトを舎弟にしたら怒るか?」と兄貴にクエッション。「激嘆く」笑い返されて、俺も笑みを漏らした。言うと思ったよ。
 
 さあて駐輪場を後にした俺は飯でも食いに…、行きたいけど、その前にやることがある。腹減ってるけど、こればっかしはやっておかないと。俺は缶を傾けながら足を動かした。向かう先は。




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