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リトルブラザーの決意


 
 ◇ ◇ ◇
 

 ヨウがモトを連れて一室に戻ってきたのは、それから数分経った頃。
 
 あらかたワタルさん達が不良を片付けた頃に戻ってきたわけなんだけど、ヨウはすこぶる落ち込んでいる様子だった。原因は力尽きたように頭(こうべ)を垂らしてヨウにおぶられているモトだ。外傷は勿論のこと、ヨウ曰く階段から落ちたらしい。踊り場で倒れていたと眉を寄せている。
 けれどモトの意識はあるようで、「すんません」おぶってもらっちゃって、と、この期に及んでも尚、兄分を気遣っていた。さすがはヨウ信者といったところだ。

 「気にするな」ヨウは力なく笑い、少し寝てろと言葉を掛ける。
 その際も落ち込んでいるもんだから、俺は気遣い“過ぎる”面のある舎兄に言ってやった。「お前はやれるだけのことをしたよ」大事に至ってなさそうだし、前向きに考えようと励ます。
 そうだな、相槌を打つヨウは幾分晴れた表情で返事した。

 幸い、モトの方は病院に行くまではなさそうだと苦笑する。少し休めば回復するだろう。ヨウの言葉に俺は安堵する。


 キヨタの方は大丈夫か、ヨウに聞かれて俺は生返事。
 

 怪我の具合からしてキヨタの脇腹には痣ができているんだけど、青黒くなっているんだ。
 俺も過去に同じような怪我を左肩に作ったことがあるし、念のために病院に連れて行きたいんだけど…、キヨタが大丈夫だと一点張りに主張するものだから強くは言えないんだ。やせ我慢しているのは分かっているんだけど、本人は大丈夫だって言うし。傍で見ていたタコ沢が素っ気無く、様子見してみりゃいいじゃないかと助言してくれたから、二、三日様子見してみようと思う。

 「キヨタ。悪化したら」即病院だからな、座り込んでいるキヨタに声を掛ける。
 への字に口を曲げるキヨタは、「俺っち…あんま病院」好きじゃないっス、と我が儘を口にしてきた。ンマー、そんなこと言って悪化したらどうするザマス! 少しでも変だと思ったら首に縄括って無理やり連れて行くザマース!
 再三再四、キヨタに注意を促して頭に手を置く。そしたらキヨタ、「ケイさんも」右の手を見てもらった方がいいと主張してきた。キヨタの主張により、ヨウが俺の右手を覗き込んでくる。

「あ、腫れてるな。なんで腫れてるんだ?」

「ちょっと金属バットでな。大丈夫、湿布貼っとけば完治する程度だから。赤く腫れてるだけだし。それよりキヨタ。お前の痣は黒ずんでるんだぞ。やーっぱ病院じゃないのか?」

 「大丈夫ですから!」頑なに病院を拒むキヨタに呆れていると、痛いと悲鳴が上がった。
 
 視線を流せば口元に手を押さえている川瀬と、片膝ついて怪我の具合を見ている矢島の姿。
 喧嘩後、向こうも怪我のことで病院に行くだの行かないだの軽く口論していたんだけど、矢島が傷口を叩いたらしい。川瀬が悲鳴を上げた。眉根をつり上げる矢島は、こめかみから頬にかけて凝結している血を一瞥。腰を上げて無理やりにでも病院に連れて行くと唸った。

「足を怪我する。それがお前にとってどういうことか、分かっているのか千草」

「あ、はい。でもいいんです。もう陸上やめてますし」

「……、だとしてもだ。病院は必要不可欠だ」

 大丈夫なのに、川瀬は目を泳がせ、助けを求めるように谷の顔を見た。
 決まり悪く谷は、「ごめん」あんちゃんの手を煩わせて、と謝罪。自分がスリに遭って此処に迷い込んだせいで、川瀬も怪我してしまったのだと頭を下げる。「阿呆」そういう問題じゃないだろうが、矢島は気にしちゃいないと告げると、右眼球だけ動かして俺達に視線を飛ばした。
  

「千草。渚。あいつ等からは何もされていないんだな。あいつ等からは何も」


 軽く敵意を見せてくる矢島は、「なんたってあいつ等のボスは」あんの美貌に嫉妬する阿呆だから、可愛い舎弟達に手を出したかもしれないと腕を組む。




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