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07-15


 
 「ヅッ!」相手の悲鳴が聞こえ、背中から重みが消えたのはこの直後。瞠目するモトが顔を上げると、「ホームラン!」口笛を鳴らす川瀬の姿が飛び込んできた。持っていた護身用のバットに回転を掛けて、相手の脛向かって投げ飛ばしたようだ。
 護身がなくなったため、川瀬は呆気なく不良のひとりに蹴り飛ばされてしまう。

「か、川瀬!」

 素早く起き上がるモトに、先程の魔の手が襲い掛かる。
 脛を擦っていた不良がバットを横に振ってきたのだ。一振り目は回避することに成功したモトだが、二振り目は回避ができず、顔面向かって鉄棒が飛んでくる。骨と金属がぶつかる生々しい音が一室に響いた。
 
 こめかみに伝う鮮血に、今度こそ言葉を失うモト。
 無理やり伏せられた頭を上げれば、「マージらしくねぇ」蹴り飛ばされた筈の川瀬が痛みに顔を歪めながら、熱っぽく息を吐いた。
 「なん。で」自分を庇うのだと目を見開くモトに、「はあ? なんで…だと?」言いだしっぺのくせにお前、舐めてンじゃねぞ、川瀬が両膝をついて舌を鳴らした。
 
 「軽く頭皮が切れたな」冷静に自己分析する川瀬は呆けているモトに、すぐ立つよう胸倉を掴んで一喝する。
 
 まだ目を白黒させているモトに何を間抜け面を作っているのだとガンを飛ばし、これくらいじゃ死なねぇよと川瀬は相手を突き飛ばして敵の蹴りを腹部で受け止める。床に滑るように倒れる川瀬、一連の動きにまた庇われたのだと気付いてモトは彼に仕掛けてくる不良のバットを引っ手繰る。
 柄頭で鳩尾を突き、相手の動きを鈍らせた隙にバットで足払いをすると川瀬の下に駆けた。
 なんで庇ったのだと繰り返すモトに、「まだ分からないのか」だったら底知れぬ阿呆だと川瀬は頭部を押さえながら、毒づいて動揺している相手の胸部に軽く拳を入れる。


「今だけ手を組め…っつったのは…、寄せ集めチーム作ったのはお前だっ…。じゃあ、最後まで責任持て」
 

 言いだしっぺがやられてはこっちが困るのだと、川瀬はブレザーの袖で血を拭う。
 息を詰めるモトに鼻を鳴らし、「どーせ俺は足しかねぇ」だったら足で何か活かせることをしないと話にならないのだ、川瀬は言うや否や駆け出す。向かうはピンチを迎えているキヨタの下。

 俊足を活かして腹ばかりを蹴られているキヨタを助けるため、スライディングで敵の足元を狙う。
 体勢を崩す相手の下敷きになった川瀬は、「本当にらしくねぇ」とごちていた。頭部をやられてダメージを受けない人間はいない。川瀬は思った以上にダメージを受けているようだ。キヨタはどうにか危機を脱したようだが、向こうは川瀬の足の速さに気付いたらしい。

 「やめっ!」目論みに気付いたモトが駆け出すが、相手の動きの方が勝った。すぐさま対策を打つために曇りガラスの一片を引っ掴むと、瞬く間にそれを川瀬の腿に突き刺す。
 
 悲鳴にさえならない声がモトの鼓膜を打った。


(おい、まじかよ…、そんなのってありかよ)


 なんであいつがそこまでされなくちゃいけねぇんだよ。
 そりゃムカつく奴ではあるけど、だけど、だけど!
 
 動揺を通り越して憤りが胸を占めた。

 「ざけるんじゃねえよ!」近くにいた不良を蹴り飛ばすと、転がっていたバットを構えて目をぎらつかせる。

 
 嗚呼、ダサい。


 仲間の助けを待つ自分も、寄せ集めチームを立ち上げた自分の無責任さにも、庇われた事実にも。ああそうだよ、自分が言ったさ。手を貸せと言ったさ。言いだしっぺは自分さ。
 だったら僭越ながらも自分はリーダーと呼ぶべきポジションではないか。なのに何をしているのだ自分は。




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