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07-12


 
 「雑魚じゃねえか」とか悪態を付かれて、「自覚ありだよ」俺は胸倉を掴んでくる相手の腕を掴んで爪を立てる。

 息苦しさを覚えるけど、必死に足蹴りしてやる。雑魚でも攻撃すればじわりじわり効くだろ? 相手の肘鉄が鳩尾に入るけど、必死にこらえて悲鳴を噛み殺した。彼女が傍にいるんだ。
 なっさけない声なんて出せないだろ! カッコつけ調子ノリを舐めるでねぇ!
 

 と、唐突にトイレの個室の鍵が開いた。


 次いで、「怪我したくなかったら」頭を下げてくださいね! と大喝破。

 振り返った不良は突然のフルスイングに悲鳴を上げ、慌てて頭を下げる。俺はといえば唖然のボーゼン。だって彼女が不良の頭めがけてバットを振ったんだから。ちょっ、ええぇえええ何してるのこの子! 物騒なことしちゃってからに!
 バットはボールにめがけて振るものなんっすよアータ! 彼女でもさすがにこれは彼氏として説教もんだぞ! めっ、だぞココロさん!
 
 紙一重に避けた不良は何をするんだとココロに怒号を上げ、腰を浮かす。

 その隙に俺は男としてはやられたくない急所蹴りをかましてやった。更にココロがあわあわしながら相手の脛を蹴る。急所攻めされた哀れな不良はその場に伏した。うん、ごめん。酷いことをしたって自覚はあるけど、こっちも身を守るため、仲間を守るため、必死だったんだ。

 身悶えている不良を一瞥した後、俺は金属バットを握り締めているココロの下に駆け寄った。
 「ケイさんっ」糸が切れたように腕に飛び込んでくる彼女を抱擁して、「馬鹿」ナニ物騒なことしているのだとまずは叱り付ける。無茶しようとしたことは頂けない。次に無事でよかったと体を掻き抱く。

 叱られたことに対してはむうっと膨れ面を作り、ココロは俺の胸から顔を上げて主張した。
 「ケイさんピンチだったんですよ?」無茶だってします、と不満げに鼻を鳴らしてくる。「だ。だけどさ」金属バットでフルスイングはないだろ、向こうの頭が本当にかち割れちまったらどうするのだと意見する。
 本気で怪我させるつもりなんてなかったとココロは言い、ちょこーっと相手を脅すだけだったのだと熱弁した。

「響子さんは教えてくれましたよ。喧嘩ができないなら、脅しなり知恵を使うなり、とにかくテクニックで勝れ! と。突っ走るだけが喧嘩じゃないそうです」

 ―…嗚呼、得意げな顔で俺を見ないで下さい…、ココロさん。
 俺は泣きたい。切実に泣きたい。姉分さんの助言を真に受けて(響子さんっ。余計なことを)、それを実行した健気な彼女に! 逞しくなっている証拠だども、そんな物騒な逞しさを身につけんでも宜しゅうございますよ!
 どんなに彼女のおかげで隙ができて倒せたじゃないかと言われても、俺自身納得いかなかったりするわけだ。

 もっとお小言を言おうとするんだけど、「私、舎弟の彼女ですから」の一言で俺の説教を拒んでしまう。
 俺は額に手を当てた。ったくもう、この子はいーっつもその言い訳で話を終わらせるんだから! 舎弟の彼女だからって無茶していいわけじゃないんだぞ、ココロ! 女の子なんだから暴力沙汰はなるべく控え「響子さんは参戦してますよ!」


 ………。
 
 あーいえばこういう…、だよな。この状況。

 



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あきゅろす。
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