[携帯モード] [URL送信]
07-08




『―――…ビル三階にキヨタさんとモトさんがいます。成り行きで居合わせた方々と手を組んで応戦しているのですが、人数が多くて。私は今、二階の男子トイレ個室で待機しています。取り敢えず私は無事ですが、他の皆さんが危ないっ…、ケイさん、どれくらい掛かりそうですか?』

「最長十分。全力でそっち行くからっ、もうちょっと辛抱してくれっ。っと、ごめん、また後で掛けるから。俺とシズ、今、追われているんだ。ヨウに掛けられそうなら、ヨウに連絡をしてみてくれ。状況説明をリーダーも求めているだろうから」
 

 俺の言葉にココロは連絡してみると返事し、気を付けて下さいと言葉を掛けてきた。

 バッカ、俺の心配なんかよりも自分の心配をしろよな。
 彼女の優しさを受け止めつつ、俺はシズに携帯を切るよう促した。チャリの後ろに乗っていたシズは、背後を睨んでまだ追い駆けて来ていると眉根を潜める。マージかよ。俺達って愛されちゃってるのね、いっつの間に追っかけなんてファンができちゃってくれたんだか! 嬉し過ぎて涙が出そう!

「こっちは急いでるっつーのに」

 なんで追い駆けてくれるんだか、俺はチャリのハンドルを切って小道に逃げる。

 すると追っかけさんも小道に入ってきた。いつもだったら振り切れるであろう追っかけさんをどうして振り切れないか。
 答えは簡単、相手も俺たち同様チャリだからだ。チャリに跨って追い駆けてくる二人乗り不良と、逃げる二人乗り荒川チーム。カッコ俺もシズも家にいたせいかジャージなんだぜカッコ閉じる。
 ……なーんか変な光景だよな。チャリを使うとかパクりか? 不良さんはフツーバイクだろうよバイク! チャリは荒川チームの名物だぞ!
 
「くっそう、なんでチャリで追っかけてくるんでしょうかね。副リーダーさん!」

「日本も不景気だしな…、…ガソリン、高いし」

「なーるほど。省エネ兼節約なのですね。だけどおかげで困ったことになったな。チャリじゃなっかなか振り切れないじゃないか」

 バイクだったら小道や裏道を使って撒くことが可能だけど、チャリはスピードと方向転換が利く分、相手の根性さえあれば何処までも追ってこられる代物。
 荒川チームの戦法も考え直した方が良いのかもな。チャリ戦略を使うと珍しがられていた俺達の攻略が最近目立っている。はぁあ、チャリを攻略されたら俺の立場ないじゃなーいですか! 俺の取り得がまた一つ消える! 既に習字の腕前でガビーンなのに!

 「そっろそろ武空術を会得するべきか」俺の嘆きに、「ケイは超人になりたいのか?」シズがおどける。
 次いでふざけている場合じゃないと頭を叩かれた。じゃあノるなよ副リーダー!

 だけどまあ、ご尤もなんで反論はしない。ふざけている場合じゃないんだ。どうにかして振り切らないと。ヨウ達が道案内を待っている。
 苦虫を噛み潰したような表情を作る俺とは対照的に一思案するシズは、おもむろに口を開いてこのままヨウ達のところに行こうと提案する。振り切る時間が惜しい。だからトラブルを連れてくると先に連絡を取って手を打っておく。

「どうせ…、追っ手はチャリ二台。すぐ潰せる」
 
 自分の携帯を取り出すシズは、「最短ルートで向かえ…」連絡その他諸々は任せろと副リーダーが指示を出した。了解、俺はペダルを踏む足に力を入れる。
 お得意の路地裏に逃げ込んだ俺は店裏のエアコン室外機達を避け、湿気た細道を抜けると大通りに飛び出す。視界の右端にギョッと驚く通行人が映ったけどすんません、急いでいるのでスルーさせて頂きます。

 完全に暴走チャリと化している自転車を漕ぐこと約五分。
 歩道橋下をくぐり、スーパー近くに交差点を過ぎった先にヨウ達と待ち合わせていた薬局前が見えてくる。何処からともなく指笛を吹いてくるのは、我がチームの鬼畜と謳われたワタルさん。薬局前に立っていた彼は俺達が過ぎった後に通りに飛び出し、向こうの急ブレーキを誘う。
 
 甲高いブレーキ音と共に追っ手達は一時停止。
 
 ニンマリ笑う鬼畜さまは「お邪魔虫はいらねぇんだよ」言うや否や思い切り自転車のタイヤを横に蹴り飛ばした。
 自転車は前からの攻撃に耐久性があっても、横からの攻撃には耐久性がない。自転車を喧嘩道具として使っているからよく分かる。二人乗りしている場合、耐久性ががくんと落ちることも荒川チームは認知済みだ。なんたって喧嘩にチャリを使うチームなんだぜ! 知っていて当然よ!
 
 ワタルさんの容赦ない蹴りによって、前にいたチャリは転倒。運転手と乗員は通りに放り出された。
 背後にいたチャリが一旦引こうと方向転換を試みるものの、一時停止したチャリの方向転換の遅さも荒川チームは認知済み。

 ということは?


「速度が落ちたチャリの方向転換って苦労するよなー? とっくに二人乗りの場合は苦労するって俺の舎弟がさ。よく言ってるんだ。なー?」
 
 
 待ち構えていたもうひとりの鬼畜改めイケメン不良が、満面の笑みを浮かべて両手指の関節を鳴らした。
 



[*前へ][次へ#]

8/34ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!