07-06
寧ろキヨタには率先して敵側を相手取って欲しいのだ。
なんで追い駆けまわされる羽目になったか、濡れ衣を着せられてしまったか、それは判断しかねる。が、今しなければならないのは勝ちの喧嘩をすることではなく、状況打破と仲間を守り抜くこと。これは勝敗に拘る喧嘩ではない。尊敬している兄分ならそう状況を判断するだろう。
そう、自分達だけでは無理なのだ。彼女を守りながら喧嘩するなど。
「今だけでいい。ココロを守ってくれ。成り行きで同じ境遇に立たされちまったんだ。寄せ集めチームが出来上がったんだと思って、今だけオレ達と手を組んでくれよ。此処を出たら、喧嘩でも相手でも何でもしてやるからさ」
モトの申し出に矢島舎弟組はアイコンタクトを取り、「守るどころか女をオトリに使うかもしれねぇぜ?」谷がココロを親指でさして挑発してくる。
途端に眼光を鋭くするキヨタだが、「アンタ達はンなことしねぇよ」モトは断言した。その自信は何処から来るのか? 谷の重なる問い掛けに、モトは即答する。
「決まってるだろ、オレの勘だ」
得意げな顔を作る親友にキヨタは呆れる他ない。
不意打ちを突かれたように矢島舎弟組は目を見開き、「あーあ」「どうする?」谷と川瀬は苦笑交じりに肩を竦めた。その様子に安堵していたモトだったが、扉の状況に気付き脱いだブレザーを握り締め、来るぞ、と声音を低くした。
次の瞬間、曇りガラスが断末魔を上げて身の破片を床に落とす。垣間見えた金属バットにモトは冷汗を流しながら、集団ジェイソンにでも襲われている気分だと愚痴り、敵方の顔が見えるとその手に持っていたブレザーを投げて相手の視界を遮った。
「キヨタ!」振り返って親友の名を呼べば、地を蹴って素早く上段前蹴り。相手こそ仕留められなかったものの、持っていた金属バットは手から落とすことができ、キヨタはそれを矢島舎弟組の方向へ蹴り飛ばした。
「護身用!」それでしっかり守っとけ! と、キヨタ。
「はい!」拾ったココロは足手纏いにだけは絶対にならないとバッドを握り締めた。
あ、いや、そこはココロではなくって矢島舎弟組に拾って欲しかったキヨタの心境。
察した川瀬が、「女の持つもんじゃないっつーの」とバッドを取り上げる。
文句がてらになんで女がしゃしゃり出るのだ、引っ込んでろと川瀬が毒言するとココロは不貞腐れ気味に、「自分にできることをしようとしたまでです」と反論。足手纏いは十二分に承知している。だからこそ自分の身を守ろうとバットを取っただけだと食い下がった。
「そ、そうか」物騒な女だな…、川瀬が身を引く一方、「ふーん」そういう威勢のいい女は嫌いじゃないと谷は鼻を鳴らす。
と、クダラナイ談笑をしている場合ではない。
谷はココロの手首を掴んで出入り口近くの四隅に避難。バットを構える川瀬の前方では、必死に部屋の侵入を許すまいと奮闘している荒川チーム戦闘員が躍起になっていた。
少しでも時間を稼ごうと侵入を必死に食い止めている。
が、向こうからスプレーらしき缶や直接金属バットを投げられてしまい、二人は回避するために一旦後退。その隙に綺麗にガラスの破片を落とし、数人が侵入した。バットを拾ったモトが敵を睨みながら矢島舎弟組に投げ渡してくる。
受け取った谷は「なんでこんなことになるんだか」気だるく構えを取った。
財布はスられるは、ムカつく奴等とは鉢合わせになるは、挙句守れだの命令されるは。腹立たしいことばかりだと眉間に縦皺を入れる。
「あんちゃんに」なんて言い訳しようか、谷の問い掛けに川瀬は此処を乗り切ってから考えることにしようと苦笑を零した。今は外のどこかで待っている兄分を思う余裕はない。
ご尤もだと谷は首肯し、襲ってくる敵方のバッドを受け止めると、脛を蹴って相手を怯ませる。
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