寄せ集めチーム
【某商社跡ビル地にて】
ぶえっくしゅん! ぶえっくしゅん! ぶえーっくしゅん!
くしゃみを連発することによってモトは周囲から喧しいと言葉を頂戴する。
緊張感がないのかとツッコまれ、モトは片手を出して詫びつつ、「風邪でもひいたかな?」それとも誰かがオレの噂をしているとか? だったら良い噂じゃないだろうな。首を右に左に傾げながら鼻を啜り、キヨタと抱えていたキャビネットを扉前に下ろして一息つく。
「取り敢えずこんなもんか」モトは眉根を寄せ、扉に置かれた空のキャビネットを見下ろす。同じく視線をキャビネットに下ろすキヨタ、そして遠巻きから見ているココロや偶然にも居合わせた矢島の舎弟達もキャビネットを見下ろす。
気分は「で?」である。
沈黙が流れる中、指揮していたモトはそれらを振り払うように咳払いして、「仕方がないだろ」他にバリケードできるものがなかったんだから、と唸る。
落胆の色を見せる川瀬は、「これで大丈夫かよ」と抗議の声を上げた。
そんなキャビネットでは、仮に内鍵が突破された時に自分達の身を守ってくれるとは思えないんだけれど。溜息をつく彼に、「やらないよりかはマシだって」肩を竦めるモト。そんなモトをフォローするように、「モトの案に異議があるなら」他に良い案を出してみろよ、とキヨタが吠える。
言い方にカチンきたのか、やっぱ任せるんじゃなかったと谷が鼻を鳴らし、キヨタがそれに激情。視線をかち合わせ、青い火花を散らす。
「あ、あの」喧嘩は良くないと、おろおろするココロは完全に狼狽していた。
「はぁあ…、どーしてこうなるんだか」
モトは溜息をついて頭部を掻き、「意見割れしている場合じゃないって」と仲介役を受け持つこととなった。
閑話休題。
スリという功名かつ悪質な誘導により、このビル地に迷い込んだモト達は今、三階フロアの総務課だったらしい一室に閉じ篭っている。
その理由はただひとつ、何者かによって嵌められたからだ。三階フロアで偶然にも見つけてしまった喧嘩直後の跡地。喪心している不良達。居合わせた自分達は奴等を無差別に伸した犯人だと思われ、こうして追い駆けられ追い詰められている。
藁にも縋る思いで一室に逃げ、内鍵を掛けたまではいいが、この一室の内鍵は脆く、大きな衝撃にあまり耐えられないでいる。
ビル自体の造りが古いせいだろう。十円玉でもあけられそうな鍵の造りをしているため、外部にいる不良達が扉を強めに蹴ろうものなら扉ごと鍵が振動。突破されるのも時間の問題だと判断し、モトの指揮下でバリケード対策に打って出た。
そこまでは良かったのだがバリケードになるものが空のキャビネットひとつ。業者が故意的に置いて行ったのか、それとも後ほど運ぶ代物だったのかは定かではない。取り敢えず運んで置いてみるものの、先程のように頼りないと抗議の声が上がり、今に至る。
どうにか喧嘩を止めたモトは、「勘弁してくれって」大ピンチなんだから、協力するべきなのだと意見する。
とはいえ、同じスリ被害で居合わせた矢島舎弟組と荒川弟分組は非常に仲が悪く、何かと口論ばかりが勃発するのである。
フンッと鼻を鳴らして腕を組むキヨタは、「大体」こいつ等と手を組まなければいけない意味が分からないとぶう垂れる。矢島舎弟組は過去、自分達の兄分に汚名を着せたのだ。弟分としては見過ごせない事件を起こしているのだから、協力なんぞできる筈もないと主張。
すると矢島舎弟組も、「お前等の兄分はアンちゃんの!」「心を傷付けたじゃないか!」と大反論の大喝破。勿論、完全な逆恨みであるため、謂れのない罪である。
矢島舎弟組が揃って不細工兄分達と侮辱してくるため、モトもキヨタもカッチン。
ゴォオっと怒りの炎を燃やして相手を睨むものの、ハッと我に返ったモトがいかんいかんとかぶりを振って怒りを抑える。此処で自分がキヨタと共に矢島舎弟組と喧嘩してしまえば、危機が危機を呼んでしまう。
どんなに腹立つ相手でも、今は手を結んで協力するべきだ。そう、協力してこの状況を打破するべきなのである!
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