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精神パーソン



【某歩道橋の上にて】


「なあ、ミヤ。どうして荒川や日賀野が地元で名を挙げていると思う?」
 
 
 ミヤと呼ばれた青年は相棒に視線を流した。
 また始まった、肩を竦めるミヤなど相棒はお構いなしである。

「個々人の能力なんて高が知れている。腕っ節は確かにあるだろうけどさ。それだけだったらそこらへんの不良だって、それこそ奴等に敗北した五十嵐だって名を挙げていただろうさ。力で支配しようとしていた五十嵐だってさ」 
 
 だけど五十嵐は奇襲で一回、正面からの喧嘩で一回、合計二回彼等に負けている。
 間に奇襲返しという名の不戦勝が割り込んでくるけど、やっぱり奴は二人に敗北してしまったんだ。情けないことに、年下不良にあいつは敗北したんだよ。
 ではでは敗因は何か? 力負け? うんにゃ違う。頭脳負け? 一理あるだろうね、一理は。でも結局は一理なのさ。五十嵐になくてあいつ等にあったもの、それが勝敗を大きく分けた。

 前にも言ったけど、不良は脳みそまで筋肉馬鹿。
 そういう考え方は古いんだろうね、きっと。
  
 25セント硬貨を指で弾いては掌で受け止める動作を繰り返すカズサ。
 
 それを流し目にしていたミヤは、欠伸を噛み締め、「それ何度目だ?」そろそろ聞き飽きた話だとミヤは肩を竦める。「そりゃすまないね」ぼくはお気に入り話を何度でも繰り返すのさ、銀の硬貨を手でキャッチしたカズサはウィンクして暇人と化している相棒に詫びた。
 うんざり顔を作っているミヤは手すりを背凭れに、「暇だ」そろそろこっちが動いてもいいんじゃないかと相棒に意見する。

 まだまだ土台は出来上がっていない、ミヤは笑声を漏らして手すり越しから地上を見下ろす。
 行き交いする自動車が視界に入った。中にはトラックやマウンテンバイクが見受けられたりなかったり、である。
 手すりに肘を置いて前かがみになるカズサは持ち前の赤茶髪を風に揺らしながら、排気ガスにまみれた地上を見つめ、「敗因はパーソンの考え方だった」相手が頼んでもいないのに、先程の話を続ける。

 飽き飽きしているミヤを右から左に受け流し、お気に入り話を続ける。
 

「荒川や日賀野の怖いところは持ち前のリーダーシップ。二人は上手いのさ、個々人のパーソン能力の把握とその使い方が。でなければ、二チームがこれほど地元で名を挙げるものか」


 だって二チームのメート数は各々十人程度。双方女の子がいるときた。喧嘩ができない人間もちらほら、なのに二チームは強豪。他チームがどんなに大勢で掛かっても、二チームの名は折れることがない。素晴らしい実力だと思わないかい、ミヤ。

 あっ、お前、欠伸はないだろ?
 一応、語り部の気持ちを酌んでくれって。

 ま、とにもかくにも話は続けるけどさ。
 強いから、腕があるから、けどだからって荒川や日賀野が特別凄いというわけではなく、リーダーシップに長けている二人を支えている仲間達があってこそ、彼等は能力を発揮できているわけで。特に精神面を支えているパーソンが二人には存在する。

 日賀野で言えば魚住、斉藤もしくは小柳といったところかな。
 荒川で言えば貫名、嘉藤そして田山。
 前者より後者の不良の方が、精神面パーソンを把握しやすいから楽だよ。なあ、ミヤ?

「ほおら、あのバイク。見なよ」
 
 カズサが前方を顎でしゃくる。
 眼球だけ動かし、ミヤは背後の道路に目を落とした。歩道橋の下を潜っていくバイク、それに乗っていた不良二人を確認できるとミヤは一笑する。「意外と早いな」もう仲間の危機に気付いたか、目で笑うミヤにカズサもつられて笑う。
 

「仲間がSOSを送ったのかもしんないぜ? どちらにせよ、先導を走っていたバイク二人は貫名と荒川だってことが確認できたな。すぐ相牟田や三ヶ森達も出動するだろうよ。さあて間に合うかねえ、仲間の危機に。今回のターゲットは荒川の精神パーソンのひとり」


 チリン、指で25セント硬貨を弾き、空にそれを舞い上がらせた。
 カズサは道路に落ちていく硬貨に満面の笑みを浮かべ、目を細める。 


「弟分の嘉藤基樹」






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あきゅろす。
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