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06-16


 

 ―――…さて一方、こちらは倉庫内。否、倉庫内入り口付近。
 

 連絡先を交換し合っている様子を食い入るように監視…、じゃない、観察(と盗聴)していた弥生は「あれは乙女のニオイだよ」ジトーッと光景を見つめていた。
 同じくジトーッと監視、じゃない観察(と盗聴)しているココロは「や…やっぱりですか」ちょっと狼狽気味。揃って堤ひなのから乙女のニオイがすると口ずさんでいた。

「絶対あれ、狙ってるよね。狙っちゃってるよね! 連絡先を上手いこと手に入れたって顔してるもん、あの子!」

「ですよね、ですよね! 私も初対面から薄々感じてはいたんですよ。なんというか…、すっごくケイさんに対してフレンドリー過ぎて。執拗にケイさんに頼むなんておかしいと思ったんです。き、きっと出展話を契機に繋がろうとっ…!」

「あるあるー! 私もハジメに繋がろうとしようとあれやこれや根回ししたもん!」

 「え゛?」暴露話に傍で聞いていたハジメが表情を強張らせる。
 そんなことお構いなしに弥生は敵手の出現だと、ココロに気を引き締めるよう喝を入れた。 
 恋愛はお互いに恋して終わりじゃない。恋に落ちた後こそが勝負どころ。なにぶん、どこにでも敵手が出現するものだ。片思い時代よりも両思い時代の方がとてもとても大変なのだと、恋愛経験が豊富な弥生は初心者に諭す。

 
「恋はね、いつだって戦争なんだよココロ。何もしないでジッとしていると、あっという間に恋なんて終わっちゃう! それの代表例がヨウだよ!」


 ゲホッ!

 これまた傍で煙草を吸っていたヨウ、弥生の発言に精神的45のダメージなり。

 「弥生。テメェ人の失恋を…」咽ながら弥生を睨むが、彼女の知ったことじゃない。友達のために恋のあり方を諭そうと弥生も必死なのだ。
 特にココロは引っ込み思案が目立つ。出逢った頃よりかはマシになったが、自己主張はまだまだ下の下レベル。それでは恋の戦争に勝利できない!
 
「あの子とケイは習字で繋がっているみたいだけど、ココロ、負けちゃ駄目だからね! ネガティブはノンノンノンセンキュー! ウジウジはバッテン、オドオドもバッテン、負のオーラもバッテン! 自信を持ってケイにアタックしていかないと、絶対恋戦争に負ける! いつも勝つ気持ちでいること! ケイを取られたくないでしょ?!」

「と、取られたくないです!」

「じゃあ勝つ気持ちは大切だからね! 大丈夫、ケイの気持ちは完全にココロへ傾いてるから! ……だけどあの子、すっごく積極的だよね。お調子乗りに見せかけたアタックなんて…、ケイがノリに弱いってこと熟知してるよ」
 
 二人は出入り口からジーッと向こうを監視、ではなく観察する。
 「十日以内か」全部書けなかったらごめん。想定される問題を先に詫びるケイに対し、「出来る範囲でいいので」ひなのは笑みを返して詫びを受け止める。
 
「そうだ。これから習字教室に行きますか? 場所や道具くらいなら顔なじみとして貸してくれるんじゃありません? 一緒に書きましょうよ」

「(うっわぁあ! せ、積極的!)」

「(お、おぉお押しが強いですね!)」


「いや遠慮しとくよ。俺がどれくらい下手くそになってるのか、家で調べたいし。俺が習字教室に行ったらそれこそ、馬場さんの耳は入りそうだしな。家で書いてみるから」

「(さすがはケイ。スッパリ断ったね)」

「(安心しました…、って思う私。心が狭いのかもしれません。ケイさんが五反田さんのことでうんぬん言っていた意味、今ならよく分かります。むぅ、負けたくないです)」

「(その気持ち、花丸満点だよ!)」

 「そうですか」「うん、そうだよ」女同士の友情がいかんなく煌いている光景を遠巻きに眺めていた響子は、うんうんっと微笑ましそうに綻んでいた。




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あきゅろす。
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