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01-05


 
 想像するだけでゲンナリしちまう光景に空笑いを零しつつ、俺は自分の席に通学鞄を置いた。

 チャイムが鳴ったことでクラスメートもバタバタと自分の席に戻り始めている。まだ聞こえるチャイムの音を耳にしつつ、鞄の中の教科書やらノートを取り出していると、「たーやま!」後ろから大声で名前を呼ばれた。

 振り返れば、俺の愛すべき(んでもって薄情者その1)の光喜が駆け寄って来た。

  
「田山田山たやまっ、俺を救済してくれっ! 五百円貸してくれ! 小崎や五木、今日財布持って来てないとかほざくんだ! くっそう、午前中で帰れる奴等はいいよな!」
 
  
 俺の前に立つや否や、光喜は俺に広げた右の手の平を見せ、左手は謝罪ポーズ。
 
 曰く財布を忘れたらしい。今日は部活があるらしいから、昼飯代がいるんだと。というか、朝練終えた後でめっちゃ喉が渇いてるらしい。今からダッシュで飲み物を買って来たいから五百円玉を貸してくれとせがんできた。
 「おはようの挨拶なしかよ」呆れる俺に、「大ピンチなんだって!」もはや俺のHPは一握り、脱水症状を起こしたらどうするんだと光喜はわざとらしく捲くし立てた。


 タコ沢ほどじゃないけど、朝から煩いな、お前。
 

 「早く早く」担任が来ると急かす光喜に、やれやれと俺は肩を竦めて通学鞄に手を突っ込んだ。同時に、「長谷」チリンという音。まーるい硬貨が放物線を描いて光喜の手の平に着地。
 「お?」目を丸くする光喜に、「早く行けって」笑声を漏らしながら指示するのは俺の後ろの席の住人。我が兄貴だ。

 ヨウに五百円玉を借りた光喜の反応は…、
 

「荒川さぁああん! 激助かりましたあぁああ! 貴方は俺の命の恩人っ、後日返しますんでっ!」
 
 
 そばかす散りばめたフツー顔で、キッラキラと笑顔。
 ヨウにお礼を言うと、硬貨を片手に急いで教室を飛び出した。マージ騒がしい奴だな…、あいつ。1年の頃はヨウのこと、超怖がってたくせに。俺も人のことは言えないけどさ。
 
 というかアイツ自身に聞いた話、クラス替え発表当日までは光喜、フツーにヨウのことを“関わりたくない不良”だと線引きしてたらしい。
 でも俺がヨウと関わっている以上、友達でもやめない限り、俺伝いに話す契機が必ずやってくるわけだ。ジミニャーノのひとりの利二なんて、日賀野チームとの対峙で積極的にお助けキャラをしたから、ヨウとはよく話したりするし。

 俺や利二がヨウと関わっている。でもって光喜は俺や利二と関わっている。喋る契機がどどーんとやってくるわけだ。 
 最初こそ気鬱だったみたいだけど、ヨウと会話して「意外と普通で安心した」って言ってた。俺が初めてヨウと会話した時とまったく同じ感想を抱いてたから、ついつい笑っちまった。
 
 ヨウって身形は不良だけど、80年代に流行った不良みたいに学校や社会に対してあからさまにツンツンってわけじゃないからな。喧嘩はしても、集団リンチとか、カツアゲとか、万引きとか、よくドラマで見るヤクとか、そういったのはしないし。
 ただ親への反抗心が身形に出てたり、学校だるいから授業をサボったり。ちょいと大人への階段を二段ぐらい飛び越して、煙草や酒を嗜んだりはするけど、案外喋れば普通なんだよ。男子らしい馬鹿騒ぎするのも大好きだしな。

 ヨウや仲間の不良達は学校の問題児だけど、警察沙汰になるほどの問題児でもない。

 だから俺、ヨウに不良のイメージと全然違うな、って率直な感想を言ったことがあるんだ。


 そしたらヨウ、


「万引きとか、カツアゲとか、んなことしちまったら見つかった時、超メンドクセーことになっちまうだろ? 喧嘩はするけど、メンドクセェことはしねぇ主義なんだ、俺」


 だってさ。
 ははっ、喧嘩も十二分にメンドクセェ分類に入るのは、俺があいつの舎弟だからか? なあ?
 



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