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06-14


 

「苗字呼びってフレンドリーになれる機会を阻むと思いません? だからひなので宜しくお願いします。圭太先輩。ほらもうフレンドリーですね!」

「……、つかぬ事をお聞きするけどチャクイって呼ばれたことは?」

「何度もありまーす! だけど私めげませんよ。人類、皆お友達と思っていますし! 人類じゃなかったら不可かもしれませんが! ついでに気の合わない人間も不可ですが!」

 うわぁあ、そういうお調子付いた言動はNGだぞ堤さん! 俺が乗っちまうから!
 乗りたくてウズウズする調子魂をどうにか抑え込んでいると、「噂は知っていますよ」だけど、それがなんですか? 堤さんは目尻を下げた。


「噂の先輩、知りませんもん。私の知っている先輩は、いつだって半紙と真剣に向かい合う姿でしたし。今、私をフルボッコにするっていうなら話は別ですけど?」


 私、好きだったな。先輩の書く字。
 毛筆をしている先輩をいつも見ていたんですよ。本当に上手でした。男のクセにここまで綺麗に書けちゃうのか! それとも、私には才能が無いのか! なーんて嫉妬もしましたよ。波子先輩がいつも敵視していたのも分かります。
 だから圭太先輩が習字教室をやめると知った時は、結構ショックでした。もう習字をする姿、リアルで見られないのか。そっか。なんだか残念だなぁって。

 こんなこと話し掛けておけば良かったなぁ、なーんて、ね。
 
 結構才能あったんじゃないですか? 圭太先輩。
 どうして書道部に入部しなかったのか、私には不思議ミステリーですよ。それどころか、あらあらまあまあ、不良になっちゃって! 習字教室に通えなくなったグレが素行に出たのかと思いましたよ!
 
「どうして先輩がいいか。うーん、実を言えば私の我が儘も入ってるんですよ。もう一度、先輩の字が見たいなぁっーって。美しい字は何度見たって損ないですもん」

「美もいつかは枯れるって。俺、三年も筆触ってないし」

「枯れ木に花を咲かせましょう精神でもう一度、書いてみて下さいよ。ね、先輩。お願いしますって!」

 詰め寄ってくる堤さんに、やや怯みながら「でもなぁ」どうしても俺は毒舌の波子と関わりを持ちたくなかった。
 あいつに関わると最後、地獄の果てまで勝負の決着をつけられそうでつけられそうで。どんだけ先に級を取りたかったんだって話だよ、まったく。「じゃあ」先輩の名前は伏せますから、波子先輩にも内密にしますから、堤さんは両手を合わせてウィンクしてくる。
 
「匿名で書く、はどうですか? 仮にばれたとしても、絶対圭太先輩とは勝負させないって約束します。これでどうでしょう?」
 
 そんなことできるかなぁ、あいつのしつこさは蛇並みだぞ。んでもって堤さんも大概でしつこい、その粘り強さは接着剤以上だ。
 彼女の言葉に半信半疑の俺、一方で何度も頼み込んでくる堤さん。まあ、此処まで頼み込んでくる彼女も切迫してるんだろうな。それに人間ってのは現金な性格なもので、自分のことで褒められたりすると調子に乗っちまうんだよな。まったく俺って現金。

 「習字教室にさ」俺の弟がいるから、お題は弟に渡して、と返答。途端に堤さんは満面の笑顔で綻んだ。


「あ、ありがとうごさいます先輩!」

「熱意に負けたよ。でも、約束してくれよな。匿名のこと、そして勝負はさせないことの二つ。それを聞いて話を呑んだに等しいから」

「はい! ちなみにですね書いて欲しいもの、一応リストアップしてるんです」





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あきゅろす。
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