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06-12


 

「だけど、なんで荒川さんに敵意を?」
 

 利二の素朴な疑問はヨウの怒りを思い出させたらしい。
 「あぁあんの野郎!」逆恨みもいいところだと体を微動、握り拳を作って次会ったら絶対かます。有無言う前にかましてやると机上に大地震。よって俺と利二は内心でビビり、周囲の人間は表に出してビビっていたという。

 いや、幾ら付き合いが一年経ったとはいえやっぱ怖いもんは怖いよ。ヨウのご立腹。
 舎弟の俺が怖いくらいなんだから、周囲の人間が表に出してビビるのはいた仕方が無いことだと思う。


 ヨウの苛立ちはたむろ場でも続いた(あ、俺は当然矢島の下には行かなかったよ! 呼び出されても行くもんか!)。
 
 一体どんだけ怒ってくれちゃってるの、こいつ。こっちが呆れ返るほど怒っていたものだから、掛ける言葉も見つからない。
 まあ…、ヨウは負けず嫌いでもあるからな。学内に矢島のような態度を取る奴も珍しいし、久々に闘争心が掻き立てられたんだと思う。ヨウに対してあんな傲慢な態度、日賀野以外に取る奴もいないし。
 
 こういう場合はそっとしておくしかないと思う。
 ヨウを馬鹿にされたモトや俺のことを愛してくれているキヨタも、チョー機嫌が悪かったしな。
 
 飛び火しないことを祈りながらたむろ場で過ごしていると、他校生の仲間がやって来た。
 仲間が顔を揃えばきっとヨウ達の機嫌も回復するだろう。そう高を括っていたんだけど、「あのケイさん」ココロが複雑そうな顔をして俺に歩んできたから、その願いは叶わなくなる。


「どうしたココロ。なんかムズカシイ顔してるぞ」


 彼女に聞くと、「お客さんが」ポツリ、ポツリ、と言葉を零す。
 まさか…、俺は出入り口に視線を向けた。そこにはションボリ顔で俺を見つめてくるお客様一名。捨てられそうな子犬のような目で見つめられ、見つめられ、見つられ、俺はついつい頭を抱えた。
 
 嗚呼、堤さん、また俺に頼みに来たんだな。 
 書道出展の一件は随分前から頼まれているけど、その度に断っているっていうのに。その粘り強さにはアッパレだよ、アッパレ。
 う゛うぅうっ、そんな目で俺を見るんじゃない! 何もワルイコトをしていない、いや、寧ろ毒舌の波子に暴言を吐かれた被害者だっていうのに、罪悪が出てくるだろ! なに、この似非罪悪感っ、被害者である筈の俺の立ち位置、完全に加害者に回ってるし!
 
 俺が見ていることに気付くと、「センパイィイ!」どうして私を見捨てるんですか、貴方は鬼なんですか、酷いですよ、泣きますよ! と、盛大な非難が。
 
 おやめなさい! この倉庫は響くんですよ! 大声で言ったら皆に丸聞こえでしょーよ!

 勿論心の中の突っ込みなんて聞こえない堤さんだから、今日こそは頼まれてくださいと懇願。
 じゃないと私が地獄を見る、堤さんはオイオイとわざとらしい嘘泣きを演じた後、「それとも田山先輩は」鬼畜なんですか! 出入り口で叫ばれた。


「こんなにも頼んでいるのにっ…、人の不幸はなんとやらですか?! 困っている人の不幸が楽しいだなんて、田山先輩の鬼畜っ、ドSっ、サドっ、意地悪ー! そんなにエスいなら、私、貴方好みのエムになってやりますよ!
さあ、もっと苛めて下さいな! 頼み事を聞いてくれるなら、どんな行為でも受けれて「やめなさい堤さん! 体は大事にしなさい! 先輩怒りますよ!」





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あきゅろす。
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