06-10
「んなッ! き、聞いたか千草ッ…、こいつ等、今、あんちゃんをブサイクなんて言いやがったぞ!」
「あ、あ、ありえねぇぇええ! 目が腐ってるんじゃねえか?! アンちゃんはすべてに置いて完璧な男だぞ! 喧嘩はできるし、容姿はバツグン。剣道の級所持者で、性格良し。学内でも頭は良いんだからな! お前等の兄貴、学年テストで十番以内に入ったことないだろ!」
「ッハ、それがなんですかー? ヨウさんなんてな、地元じゃ名の通ったイケメン不良なんだぜ? 喧嘩も容姿もパーフェクト。更に機転がよく利いて、カリスマ性はピカイチ! チーム内の信頼も厚く義理堅い男。アンタ等の兄貴なんて目じゃねえぞ!」
「俺っちの兄貴は確かに喧嘩なんてできない。非力だって周りから言われている。だけどチャリに土地勘、そしてグッジョブな筆記。人は見た目じゃない、心なんだ! そう諭してくれる男前なんだぞ! そんな男前をパシリ? お前等がケイさんのパシリだろ!」
バチバチ、青い火花を散らし合う弟分達に俺は溜息をついた。
小学生並みの喧嘩だな、こりゃ。兄分ゾッコンは嬉しいけど、愛しすぎるのも難点だよ。周囲の眼とか置かれている状況とか構わず、愛を主張してくれるんだから。
俺の頭痛が増す一方、舎弟二人はフンと鼻を鳴らして知っているんだぞ、と声をハモらせた。
「「お前等、ただの弟分じゃないか。舎弟じゃないくせに!」」
「渚。千草。もういい。そろそろ学食室の視線がうざったくなってきた。戻るぞ」
両舎弟の頭に手を置いて、矢島はヨウに鼻を鳴らすとさっさ立ち去る。
結局何しにきたんだ、ヨウが矢島を怒鳴ると足を止めてキャツは振り返りニヤリ。「単なる嫌がらせだが?」いつまでも学内でデカイ顔できると思うな、吐き捨てて、さっさと学食室から出て行ってしまう。後を追いかける舎弟二人は出て行く際、立ち止まってこっちを向くと小生意気にあっかんべー。
最後の最後まで俺達に敵意を向けてきやがった。
はてさて、残された俺達はというと。
「ああぁあああの野郎っ! 俺のかけうどんっ、どーしてくれるんだっ! 七味まみれにしやがって! 金返せ!」
「む、ムカツクゥウウ! なんだよあいつ等、ヨウさんの悪口ばっか言いやがって!」
こうなっちまうよな…、誰がこいつ等の怒りを鎮火させると思ってるんだ。
「凄いなぁ」あの荒川庸一に堂々と喧嘩売るなんて、ハジメは感心していたけど、ワタルさんや弥生は同調していたけど、いやいやいや誰か暴走しているこいつ等を止めてやってくれ。俺はやだぞ、面倒な役を承るのは。
はぁっ…、溜息をついていると長い唸り声を上げて握り拳を作るキヨタの姿に気付く。
ググッと握り拳を作ってブルブルと体を震わし始めるキヨタに、「ど。どうした?」声を掛ければ、「クーヤーシーイー!」絶叫する我が弟。地団太を踏んで、自分や兄分のことを侮辱したことに憤っていた。
「ちょぉおお悔しいっスっ! なんっスかあいつ等っ、人の兄貴をあーだこーだっ…、しかも弟分がどうたらこうたらっ。舎弟も弟分も大差ないっつーのっ…、くそっ、クソォオオ!」
「き。キヨタさん。悔しいのは分かるけど」
「ケイさんは悔しくないんっスか! あっそこまで馬鹿にされて!」
えー、そこで俺に飛び火?
「そりゃあ」馬鹿にされて腹立たしいとは思うけど、口ごもる俺は、すぐに笑みを浮かべて返答。
「あの程度なら可愛いもんだって。そう、毒舌の波子に比べればゼーンゼン! パシリのパシ? 可愛いもんじゃんかよっ、ヘボ山に比べればな! あっはっはっはっ、思い出しただけで腹立ってきたんだぜ! あぁああんの畜生女っ!」
「あ…あぁ…すんませんっス。なんかヤーな思い出を蒸し返したようで」
「いいんだってキヨタ。まあさ、あいつ等の言うことなんて気にするな。俺がパシリっぽく見えるって言われるの、今に始まったことじゃないし」
「なんか、悔しいっスよ。それ…、あいつ等だけじゃなくて周囲の奴等もケイさんの悪口ばっかっス」
「んー。確かに気になっているけど、俺がどう言っても向こうの俺に対するイメージって変えられないしな。あんま気にしないようにしてるよ」
お前も慕ってくれているし、周りの悪口は気にしないようするから。
ポンッとキヨタの頭に手を置く。口をへの字に曲げているキヨタは納得していない面持ちで、いつまでも唸り声を上げていた。ったく、お前ってほんっと損する性格だぞ? 俺なんかを慕っちまってさ。俺のために真剣に怒ってさ。おかげで俺、お前のこと、超可愛い弟分だって思っちまうじゃんか。
「くそっ、俺のかけうどん」
ヨウはまだかけうどんで恨み節を唱えているらしい。
だよな。金払ったっていうのに、お前のうどん、真っ赤っかだもんな。勇者じゃない限り、それを食そうなんて思わないよな。しょーがない、俺の弁当はヨウにやるか。
ついでに矢島との一騒動のせいで一部始終、視線を浴びることになったけど、それについてはすべて無視することにしておこう。
うん、一々気にしていたらやってらんねぇもんな。
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