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06-07


 
 マジマジと弁当を眺めてくる弥生は、「本当にまめだね」と感心。
 私じゃ無理かも、とテーブル上に頬杖をついた。


「お弁当って早起きして作らないといけないから。私じゃ無理だな…、時間ギリギリまで寝ちゃうし。タコさんウインナーとかメンドクサイとか思っちゃうし」

「あひゃひゃん。そんなこと言っちゃヤーよ。ハジメちゃーんが密かに期待しているんだから!」

「ゲッ。なに言ってくれちゃうの、ワタル」

  
 ワタルさんに揶揄という名の辻斬りをされたハジメは思い切り顔を渋らせる。
 あんまこの手のからかいには慣れていないんだよな、ハジメ。俺もそうだけど。だけど悪いワタルさんは好んで人を弄くってくる。「実は期待してるんでしょ?」脇腹を小突くワタルさんに、「べ。べつに」ハジメは素っ気無くお茶をがぶ飲み。ははっ、動揺してらぁ。
 弥生はといえば、お弁当はちょっとねぇっと溜息。どうしても早起きが無理らしい。
 

「お菓子作りは好きなんだけどね。でも私、ココロほど上手じゃないし。大体、ハジメがお弁当で期待しているなら、私は別のことで期待しているんだけど」


 え゛…、ちょ弥生さん?


「あーあ。私が単に肉食系女子なのか、それともハジメがヘタレなのか。うーん、悩みどころ。ふふっ、そのうち私から動いたらごめーんね。ハジメ」


 大丈夫、今はハジメから動いてくれることを期待して待っているから。まだ待てるから。
 満面の笑顔で言う弥生だけど、ハジメを含む俺達は石化。このお嬢さんは何を、お昼から何を仰ってくれるんでっしゃろう。びっくりするんだけど。発言に驚き返るんだけど。
 
「ッ〜〜〜っ、弥生」

 せめて場所を考えてから発言してくれと、我に返ったハジメが呻いた。
 二人きりならまだしも、皆がいる前で、しかも学食室で発言するなんて。軽く顔を赤くしているハジメに、「初々しいデスネ」そういう反応がヘタレって言うんだよ、弥生がニコリ。
 
 「でもいいんだよ」ヘタレているなら私から動くから、なんて宣戦布告にも似た発言をする弥生に、ますますハジメの立場はない。
 だけど男としてのプライドはお持ちなのか、「分かったよ」僕が動くから、挑発に乗ってしまう。弥生は小さなガッツポーズをとって待っているからとニコニコニッコリ。ちょっち冷静になったハジメは、やってしまったと額に手を当てて肩を落としていた。
 
 うわぁああ、小悪魔、弥生さん、小悪魔。
 恋すると弥生ってすこぶる小悪魔になるのか? すっげぇな、逃げ道の塞ぎ方が。ハジメ、見事に敷かれてるし。
 

「なんでデキねぇんだ。俺なんて三日で帆奈美とベッドインだったのに」


 ヨウ、シャラープ!
 お前の恋愛事情とハジメの恋愛事情は違うんだよ! お前の場合は大人過ぎるから!

 心中でツッコむ俺を余所にヨウは割り箸でかけうどんの中身をぐるぐると掻き回し始める。
 
「それにしても、このかけうどん味が薄いな。んー、七味ねぇ? あ、モト。そこに七味があるから取ってくれ」

「あ、はい」

 ヨウがかけうどんの味にイチャモンをつけて、モトに七味を取ってくれるよう頼む。
 確かにちょっとこのかけうどん、味が薄いかもしれない。俺も後で七味を掛けようかな。

 なんて思っていた矢先の事だった。
 七味を取ったモトがヨウに手渡そうと手を伸ばした刹那、横槍を入れるように別方向からヨウのかけうどんに七味がどばり。
 ヨウのうどんの中身は目を瞠るほどの赤さを放つようになってしまう。

 突然のことにヨウは勿論、俺達も「………」だ。

 誰がどうみてもかけ過ぎ、入れ過ぎ、辛そう。量からして容器の中の七味が全部が投入されたんじゃないだろうか?
 



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