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01-04


 
 赤くなった手の甲を擦っているタコ沢が地を這うような声で、「ケーイー」貴様はまた一つ、俺に喧嘩をっ、と怒りに震えた。
 慌てた俺は愛想笑いで、「今のは痛いよな」ゴメンナサイ、ちゃーんと素直に謝る。


 で、それだけでは気が済まない俺は人情で言うんだ。
 

「タコ沢、昔から痛みに効く魔法の呪文を教えてあげよう。イタイノイタイノとんでけー!」
  
  
 別名、人情という名のその場凌ぎとも呼ぶ。
 
 愛想良く、んでもってノリ良く唱えた俺の魔法の呪文にタコ沢は嬉しそうに笑う、わけもなく…、ピキッとこめかみに一つ青筋を立てた。
 目は口ほどにものを言う。睨んでくるタコ沢の目は訴えていた。『貴様っ、舐めてるのかゴラァア!』と。
 
 「ケーイー」怒りに一層身を震わせるタコ沢に、「てへ」呪文失敗かなぁ、俺は目を泳がせて後退り。
 タコ沢は今にも立ち上がって俺の胸倉を掴んできそうだった。というか、直後、本当に立ち上がって勢いづ「ケイいるか!」、ガンッ、ドン、バッターン!


 ……折角勢いづいて立ち上がったタコ沢だけど、後ろから蹴られてその場にバタンキュー。
 顔面強打したのか、鼻を押さえて身悶えていた。

 つくづく運がない男だよな、お前。

 
 同情する俺を余所に、タコ沢を踏んづけてこっちに歩んできたのは俺の舎兄。タコ沢を蹴った張本人でもある。まる。
 「うをッヅ!」タコ沢の悲鳴なんて気にせず、真っ直ぐ俺に歩んでくるヨウは「はよっ」今日も素敵に無敵に眩しくイケメンスマイル。「はよ」引き攣り笑いで挨拶を返す俺に構わず、ウッキウキ声でヨウは話を切り出してきた。

 なんだかご機嫌だな、ヨウ。

 イイコトでもあったのか?
 
  
「ケイ、今日は真面目に授業出ようぜ! 午前中しか授業ない上に、HRだけなんだろ? しかもHRが係り決めと班決め、ふけちまったら、適当な班や係りに回されちまう! 一緒の班になれねぇしさ!」
  
 
「珍しく授業出ます宣言したかと思えば、お前のご機嫌ってそれかよ」

「バッカ。重要なことだろ? だるい奴となるなんて俺、ごめんだぜ」
 
 
 肩を竦めるヨウは、「班といえば」二年の俺等には修学旅行があるよな、と話題をちょい先の話まで目を向けた。
 「今年は何処だろうな」去年は京都だったんだろ? 質問が飛んできたから、俺はうんと一つ頷く。


「去年が京都、その前が北海道。もうちょい前は国内チームと国外チームに分かれて、修学旅行に行ってらしいよ。でも、国外だと結構お金掛かるから、一昨年から国内一本になったんだって」

「ふーん、確かに海外旅行は金掛かりそうだよな。ま、俺は楽しめりゃ国内でも国外でもいいんだけどな。けど沖縄とか行きてぇな。海行きてぇ。そうだ、ケイ。今年の夏は海か山に行こうぜ。キャンプでもいいや。皆で行こうぜ」

「おいおい、気が早過ぎるぞ、ヨウ。まだ春だっつーのにさ」

「いいじゃねえか、遊びの予定は早めに立てておいた方が楽しみが増える。おっと、チャイムが鳴ったな。座るか」
 

 頭の後ろで腕を組むヨウは、「座ろうぜ」と声を掛けてきた。
 その際、ヨウは振り返って鼻を擦っているタコ沢に流し目。にやりと口角をつり上げた。

「出入り口でたむろってるから、顔面強打すんだよ」

「貴様が蹴らなかったらっ、強打することは無かったんだが?」

 
「俺は出入り口を遮っていた障害物を蹴っただけだ。ま、可哀想だからテメェに俺がスッゲェ呪文を掛けてやるよ。イタイノイタイノトンデケー」


 「なっ、貴様っ」またしても俺様に侮辱っ、この雪辱必ず、かならず晴らしてやるからなぁああ! 覚えてろっ、舎兄弟ィイイイ!
 後ろでギャンギャン吠えているタコ沢にヨウは大爆笑、俺は引き攣り笑い。あーあ、またひとつ、タコ沢に追っ駆けられる要因、増えちまった。


 こりゃ一生俺、タコ沢と追いかけっこするんじゃね?
 




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