01-03
グイッと襟首を引っ張られたけど、俺は必死にドア枠に縋った。
ぜぇえったいドア枠から手を放すもんか! 俺は喧嘩スキーじゃない、平和スキー。勝負するなら習字かチャリって決めてるんだこのやろう!
「ゴォオラ、ケイ!」怒鳴られても、「イーヤーだー!」俺は全力で拒否ってみせた。
焦れたタコ沢は更に声音を張って、襟首を引っ張ってくる。
「ケイ、そっれでも男か貴様! 勝負を挑まれたら、どんな相手であろうとも勝負する。売られた喧嘩は買うのが礼儀。そういうもんだろうがぁああああ! さあ買え! 男なら腹括って買ってみせやがれ!」
「それ悪徳商法、押し売り反対! それに俺、男チガウ! 今は圭子だもの! 一時だけ圭子に成り下がったもの、わたし!」
「だぁあっ、クソメンドクセェな貴様!」
そっくりそのまま返すから、その言葉!
お前の喧嘩押し売りっ、毎度の事ながらクソメンドクセェ! ……ああっ、ほんと誰か助けてくれよ、マジで。ほらそこの人達、遠巻きで俺達のやり取りを眺めてないで、誰か一人くらいは「おい仲良くやろうぜ」的な爽やか好青年台詞を吐いてくれって。
あ、教室に居る生徒ひとりと目が合った瞬間、サッと逸らされてしまったというね。なんて正直な反応。俺だって君の立ち位置なら同じ事をするけどさ!
だったら自力でっ…、俺は咄嗟に相手の弁慶の泣き所を蹴った。
「ヅッ!」いってぇと悲鳴を上げるタコ沢の手が緩んだ隙に、俺はさっさと手を払って汚い床の表面を蹴った。やや肌蹴たブレザーを直しつつ、肩に掛けていた通学鞄を定位置まで戻す。
次の瞬間、「ケィイイイイイ!」よくもやりやがったなっ、やっぱり貴様はゆるさーん! 大音声とバタバタバタという足音。
わぁお、もすかすて俺、火に油を注いだ? 薪に油を添えちまった?
チラッと背後を見やり、俺は走る速度をフルにした。だってあいつっ、闘志ガンガンで俺を追っ駆けてくるんだもの! 何をどうしても喧嘩したいのねっ、君も青春してるじゃなーい! すっこぶる迷惑な青春だけどな! 青春のお相手俺じゃなくたっていいじゃなーい!
俺にはココロという大事な彼女がいてだなぁ、その子と甘酸っぱい青春をしたいとっ、息が持たねぇ! 俺、もう限界っ…。
だけどタコ沢はまだまだ体力的に余裕があるだろうなっ。あいつ、チーム一体力とド根性がある男だからっ! あ、ちなみにタコ沢はチームに属してないって言ってるけど、立派なチームメート。何故ってヨウのパシリくんだから!
ズレ落ちそうになる通学鞄を肩に掛けなおして、俺はどうにかこうにか自分の教室に逃げ込んだ。
これで安心…じゃなく、困ったことに、俺とタコ沢って同じクラスメートなんだよなぁ! 此処が安全地帯って問われれば否! だけどもうすぐチャイム鳴るし、どっちみち此処に入らないといけなかったから教室に逃げ込んだことは丁度いい!
ゼェゼェ息をついて、俺はさっきと同じようにドアを閉めにかかった。今度はあいつがドアを抉じ開けてくる前に、勢いづけて閉めればちょっとは時間稼ぎにっ、ガン―ッ!
「イッデエェエエエ!」
uh-oh...
俺が勢いづけてドアを閉めたのと同時にタコ沢がドアの隙間に手を挟んだから、見事に手が挟まった。
い、痛そう。
ご、ごめんタコ沢! でもわざとじゃないんだ! 俺も必死だったんだよ! 生き延びるために必死だったんだよ!
恐る恐るドアを開けて、俺は隙間からちょっと顔を出す。
「ダイジョーブ?」声掛けに、しゃがみ込んで右の手を振っているタコ沢がギッと涙目で睨んできた。あははっ、大丈夫じゃないんだな。見りゃ分かる、分かるけど社交辞令として一応心配するのが人情ってもんだろ!
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