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05-23


 
 一応お母さんとは連絡がついているみたいなんだけど、愛人がどうしても子供は傍に置きたくないと言ったらしく、「学費は仕送るから」置いてもらえる家を巡ってみて、と住所と手帳を手渡されたとか。子供より愛人をお母さんは取ったんだ。

 そんなのありかよ、俺もヨウも怒りを感じるけど、シズは平坦な声で子供は荷が重かったのかもな、と肩を竦める。
  

「取り合えず…、寝る場所がほしかった。金は、あまり使いたくなかったし。鍵は持っていたから…、此処に厄介になっていた。大家に、バレたら…、怖いから、押入れの中で寝ていたんだ。驚かせて、悪かったな。こっちも…、驚いたんだが」


 どうして俺達に頼らなかったんだろう。

 いつもどおりたむろ場に来れば、泊めてくれと言えば、すぐに泊めたのに話を聞いてやったのに。
 けど俺は何となくシズの気持ちも理解できた。迷惑を掛けたくなったと同時に、気持ち的に人に会いたくなかったんだ。だって実質上シズは親に、親に、おやに。

 「前から」母さんとも諍いがあったんだ…、だから、一緒にいたくないのもあるんじゃないかと思う。
 シズは微苦笑を零して自分の暮らしていた部屋を見つめた。


「母さんに…、金がないと言われていた」

 
 それで自分にバイトでもなんでもいいから、金を稼ぐよう言われて。
 表向きは生活費がないと言っていたが、単に自分の金がなかっただけだと思う。いや愛人に貢ぐ金というべきか。しきりにバイトを言われて、遊びばかりじゃないかと文句を言われて、仕舞いにはつるんでいる仲間と縁を切るよう命令された。それが自分を堕落させる原因だ、と。

 やけにそれが腹立たしかった。
 自分のことばかりじゃないか、なんでそこまで言われる義理があるんだ。ムカツク。

 シズの声に感情がこもる。


「この話…自分でケリをつけて、いつか笑い話にする…予定だったんだ」
 
 
 「だが」ヒトリじゃ何も出来ないらしい。
 困った、本当に困ってしまったとシズは苦笑を絶え間なく漏らす。親を憎めばいいのか、自分の不甲斐なさを嘆けばいいのか、どうすればいいのか分からない。ただただ苦笑を零している。

 シズの語りを黙って聞いていた俺は思った。
 そうか、シズがメシが不味いと、食えなくなったと、美味しくないと言い始めたのはこのせいだったのか。シズは辛かったんだ。メシが美味しいと思えなくなるほど、追い込まれていたんだ。
 
 だけど自分じゃ気付けなくって、辛いと思うのも悔しくて、すべての感情を食にぶつけていたんだ。 
 食べる代わりにシズがあんなに俺達と楽しそうに喋っていたのは、背景に家庭の陰があったから。昼寝が見受けられなくなったのは、眠ると現実が蘇ってくるから。俺達に頼らなかったのは、俺達とは笑って過ごしたかったから。辛い心境を教えて、俺達まで辛くさせるのが嫌だったんだろう。

 ちゃんと食事をしているのか尋ねれば、「金はあるから」コンビニで済ませていた、とシズ。
 けれど食事には困らなかった、あまり食欲もなかったしな。困ったのは寝る場所だけだと、不思議そうな顔で首を傾げている。辛いくせに辛い、が分かってないんだ。シズは。

 ほんと、鈍感な奴だ。



「やっぱり…、今…、は、お前等に会いたくなかった…な」
 
 
 
 ふっ、とシズは呟く。「会いたくなかった」と、そして「疲れた」と。
 転々と親戚の家に回ることも、親に振り回されることも、家庭でどうこう考えるのも、本当に疲れてしまった。だから疲れた頭で考えた。この疲れの元凶をどうにかすればいいんじゃないか、と。




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あきゅろす。
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