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「いつか、笑ってやればいい」




「―――…ハァハァッ。ったく、ケイが馬鹿なことバッカ言うせいでっ、焦ったじゃねえか! 死体とか言いやがって!」

「お、おぉおお俺は悪くないって! 大体お前がアパートにはいる前にっ、よ、ヨウが余計な恐怖心を植えつけるからっ!」
 

 ゼェハァ、ゼェハァ。
 
 チャリを持って呼吸を乱している俺と、シズを背負って同じく荒呼吸を繰り返すヨウは、ぐったりと首を垂らして汗を掻いていた。
 押し入れから出てきた猫型ロボットならぬ、我等が副リーダーを抱えてアパートから逃げ出してきたわけだけど、いや、マジ焦った。まさかシズが押し入れから転がり落ちてくるなんて超ビビッた!
 
 だってだってだって押入れが開かずの間と化していたんだぜ? 押し入れのレール部分には釘が打ってあったんだぜ? そこから呼ばれて飛び出てシズちゃーんが出てくるんだぜ?! しかも気絶してるなんてじ、事件現場にでも遭遇したんじゃないかって思うじゃないかよぉおお!
 危うく第一発見者になるところだったけど、シズはちゃんと生きている。外灯に照らされているシズは、ヨウの背中で瞼を下ろしていた。

 ほ、ほんっと人騒がせなっ。
 まーだ心臓がドッドッドと高鳴ってるし…っ、あー嫌な汗を掻いた。寿命縮んだかも。 

 それにしてもシズ。なんかちょっと見ない間にやつれたな。
 ブレザーから見えているシャツはヨレヨレだし、髪はボサボサ、右頬にはでっかい青痣を作っている。喧嘩でもしたのかな…、あの強いシズに青痣なんて。
  

「あーあ。ケイのせいでシズの靴、ねぇぞ」
 

 テメェが焦らすからシズの靴を忘れた、ヨウが負ぶっている副リーダーの足先を見て溜息。
 「取って来いよ」命令されたけど俺は即却下を出した。俺ヒトリであの場所に戻れって? そんなの酷じゃないか! おおもとの元凶はヨウが俺を脅すから悪いんだよ。取りに行くなら二人で行く、だからな! 
 
 首を横に振って行きたくないアピールをすると、「ヘタレ」ヨウに毒づかれた。
 煩いやい! お前だってヘタレてたじゃんか!
 

 と。


 道端で騒ぐ俺達の声に、シズが反応。
 
 重たそうな瞼を開き、気だるそうに顔を持ち上げた。
 状況が分かっていないのか、ヨウの背に目を落として一傾げ。周囲を見渡して一傾げ。俺に視線を留めて一傾げしている。「俺が分かるか?」シズにおずおずと声を掛けるけど、向こうの反応は鈍い。いや、鈍かった。

 だけどしっかり俺達のことを認識したシズは、何処か焦ったように無言でヨウの背中から下りると、靴下のまま駆け出してしまう。

 ちょ、え、えぇえええ?!
 なんで逃げられるんだよっ! 俺達を幽霊だとでも思ったか?!


「おい待てよシズ!」

 
 急いでヨウが後を追い駆けた。
 二人とも大概で足は速いんだけど、今のシズは弱っているのか、あっという間にヨウの手で捕獲。逃走劇は早々と幕を下ろした。
 



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