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05-18


 

 この傍若無人男はぁああああ!


 堂々と中に入り始めるヨウに、握り拳を作って身悶える。ヨウに振り回されることは慣れている、いるけど、やっぱ腹が立つっ! 口が裂けてもヨウには言えないけどさ!

 だけど此処で尻込みしていてもヨウに怒られるだけだろう。

 泣く泣く俺はヨウの後について行った。
 
 人ひとりがようやく通れる狭い玄関を潜って靴を脱いだ俺は、すぐに違和感を覚える。
 玄関、やけに片付いているな。汚いローファーが三足、そして踵が潰れているスニーカーが一足ある程度だ。他に靴は見受けられない。やっぱこの家主は留守なんじゃ、それとも靴棚に靴が入っているのかな? 疑念を浮かべながら恐る恐る暗い通路を進んで部屋へ。

 途中電気を点けようと思ったけど、電球が切れているのか、電気は点かなかった。


「ヨウ、誰かいたか?」


 視界の悪い部屋に到着した俺は、台所から居間をつくねんと見つめているヨウの姿を見つけて歩み寄る。
 ヨウは佇んでいた。途方に暮れているようにも見える。
 「嘘だろ」なんにもねぇ、何度もシズの家に遊びに来たことがあるヨウは瞠目して部屋を見据えていた。俺もそこに視線を流し、スーッと目を細める。ヨウが驚くのも無理はなかった。


 本当にそこには“何も”なかったのだから。


 居間らしき部屋には畳しかなく、夜景が見える窓にはカーテンさえ掛かっていない。
 生活に必要そうなテレビ、テーブル、掛け時計にカレンダー、そういった物は一切見受けられない。人が此処に住んでいるとは到底思えなかった。なるほど、だから電気が点かなかったわけか。

 無人の部屋にヨウは大層ショックを受けていた。
 「なんで」何もないんだよ、引っ越したのかよ、聞いてねぇよ、動揺しながら居間へ。

「カーテン、黄色いヤツが掛かってたのに。そこには置時計があったのに。あそこにはパソコンが置いてあって…」

 あいつ、黙って引っ越しちまったのか。
 まさかこのことを黙って…、そんなのねぇって。学校も変えちまったりするのか。やっぱねぇよ、そんなの。

 ヨウのぼやきに俺は何も言えず、ぐるっと部屋を見渡す。
 薄汚れた白い壁と柱。その柱に歩み寄ると、鉛筆で引っ掻いたのか、何本もの黒い線が縦に入っていた。壁の薄い染みを指でなぞった後、俺は場所を移動して寝室らしき部屋を訪れる。やっぱりそこも畳張りでなにもない。がらんとしている。

 破れの目立つ襖に視線を流した。

 押入れか、此処に布団を仕舞っていたんだろうな。おもむろに歩んで襖を開ける。そこもやっぱり空っぽだった。奥を覗き込んでも結果は同じ。
 「なんもないよな」苦笑を零し、俺は隣の襖に手を掛けた。「ん?」俺は眉根を寄せる。硬くで引けない…、んだけど、なんで? 何か物でも引っ掛かっているのか? 俺は反対側の襖に手を掛けて開けることにする。やっぱり硬くて開かない。

 開けるなってことか?
 いや、そうなると気になるのが人間の心理でして。




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