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05-16


 

「喧嘩やチームのことで切れがあるあいつでも、自分のことになるとてんで鈍感になっちまうんだよ。気付けないっつーのかなぁ、自分のことをよく分かってないのかもしんねぇ。
……あくまでこれは俺の憶測に過ぎねぇけど、多分あいつ、家でなんか遭ってるんだと思う」


 ヨウの家庭が複雑なように、シズの家も結構複雑だ。

 シズが小さい頃に両親が離婚している。シズはお母さんに引き取られて女一つで育てられてたらしいんだけど、シズが中学に入る時、お母さんが再婚。あまり上手くいかなかったみたいで、離婚届は出してないけど旦那さんとは不仲。旦那さんは殆ど帰って来なくなったらしい。
 代わりにお母さんは愛人を作り、家につれて帰るようになったとか。
 
 よくシズが俺の家に泊まりに来るんだけど、その背景には家が嫌いだからという大きな理由がある。

 家に帰りたがらないシズの家庭で何かあったんじゃないか、似た境遇に立っているヨウはなんとなく悟っているようだ。


「昔さ、シズ、俺に親の事を愚痴ったことがあったんだけど。その時、メロンパンを食っていたんだ」


 あの時のあいつ、メロンパンをしきりに不味い不味いっつーんだよ。パン屋で買ったあいつの気に入りパンを不味い、味が落ちたのか、がっかりだって文句言ってたけど。パン屋のパンの味が急に変わるわけねぇ。変わったのはシズの心境だ。
 味が変わったと思い込むくらい…、あいつ、精神的に参っていたんだ。

 だけどあいつは自分の気持ちを分かってねぇ。
 「不味すぎる」ってメロンパンに八つ当たりばっか零していた。専ら俺はシズの愚痴を聞くことしかできなかったし、あいつもすぐ元通りになった。
 
「だから今回も、なんとなく家でなんか遭ったんじゃねえかと思った。詮索しなかったのは、あいつが家の事を聞かれるのは嫌がると思ったからだ。俺もそうだしな。俺達と一緒にいる時くらいは楽しく過ごしたいとか思ってたんじゃねえかな。ワタルや響子らへんはあいつの心境、察したと思うけど…、けど…、あああくそっ!」
 
 失敗だったな、シズがプチ失踪を起こしちまった。
 ガシガシと頭を掻いて呻くヨウは、「判断ミスった!」と立ち止まって地団太を踏む。「うっし、こうなったら」家に乗り込んであいつの親をシメてみっか、とか物騒な事を言い出したもんだから、俺は血相を変えた。こいつならやりかねない!


「や、やめろって。それこそシズが嫌がるから!」

「シズが嫌がるかどうかの問題じゃねぇ。俺が行動するかしないか、そこが問題だと思うんだケイ。いいかケイ、行動しなかったら何事も可能性はゼロパーセントだぞ? だったら何か行動した方がいいじゃねえか。安心しろ、脅しはするけど怪我はさせねぇって。おっし、決めた。シズの家に行くぞ!」

「い゛っ、ま、マジで? お前、数日前も行ったんだろ?! シズの家に!」

「数日前は数日前。今日は今日だぜ? 昨日と今日は違うって。家、此処からわりと近いんだ」
 

 だぁあああぁあ、出たお前の思いつき行動! まーじーかーよ!

 「勘弁しろって!」俺の嘆きなんてまったく耳に入れないヨウは、さっさとチャリに乗るよう命令。まずは坂を下るぞ、なんて道を教え始めてくれるもんだから、俺は心中でドチクショウと悪態をつく。これで揉め事にでもなったらどーしてくれるんだよ! シズに怒られても知らないぜ、俺!

 くっそう、責任はお前が取れよな。
 どうせお前、俺の注意なんて耳にする気もないだろうし。




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あきゅろす。
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