[携帯モード] [URL送信]
05-15


 
 
 それからの一週間。

 心配していたシズに大きな変化は見られなかった。
 日常の変化で挙げられるとしたら、二日に一回、堤さんが俺の下にやって来て出展の一件を頼んでくることくらいだけど、今はシズのことを重点に置きたいから俺のことは省略させてもらう。
 
 食に関して急激に興味をなくしたシズは暴露を契機としたのか、食の代わりによく俺達と喋るようになった。

 普段のシズは食べるか寝るかが大半。ゲーセンやカラオケ等々遊ぶ行為以外の時は、食べて寝るを繰り返す子なんだ。会話に入っても聞き手が主、喋る行為自体には消極的だ(あ、食べ物の話になると饒舌も饒舌なんだぜ!)
 だから自ずから俺達と喋るってすっごく珍しいんだけど、此処一週間シズは俺達の談笑の輪に対して積極的だったりする。悪いってわけじゃないし、こっちも話していて楽しいんだけど、なーんかシズらしくないんだよな。

 食べる行為を見なくなったこともなんだか変な感じだし、昼寝する姿もあまり見かけなくなった。
 
 俺が違和感を覚えているんだから、きっと他のメンバーも同じ事を思っている筈。
 でも誰も何も言わない。それはシズが楽しそうに見えるせいだからだろう。喋る時のシズ、すっごく幸せそうなんだ。まるで極上のケーキを口にしたくらいに頬の筋肉を緩めているから、その、変な感じとか、らしくないとか、そんな余計な事も言えず。
 

 違和感の度だけが日に日に増していった、ある日のこと。

 糸が切れてしまったかのように、プッツリとシズがたむろ場に来なくなった。
 
 学校にも行っていないようで、シズと同校の響子さんやココロも姿を見ていないと教えてくれる。携帯にメールや電話を掛けても応答なし。シズの家を知っているヨウが何度訪問しても、居留守を使われているのか、本当に本人がいないのか、シズの姿は見られなかったという。
 煙のように消えちまったシズに、誰よりも心配の念を見せていたヨウは「やっぱ…、あいつ」何処となく後悔したような顔を作っていた。シズが消えたことに対して、なんとなく心当たりがあるらしい。

 だけど確信はないのか、俺達には胸の内を明かしてくれなかった。
 
 連絡が取れない以上、コドモの俺達には成す術もないし、単にたむろ場に行きたくないのかもしれない。


 とはいえ心配も尽きない。
 

 どうすればいいか分からず、時間だけが流れ、とうとうシズが現れなくなって五日目を迎えてしまった。
 

「今日もシズ…、学校にもたむろ場にも来なかったな。ヨウ」
 
 
 暮夜の下。
 
 長い上り坂を差しかかっていた俺は、そこをチャリで頑張って上ろうという気にもなれず、舎兄と肩を並べてチャリを押して歩いていた。
 ぼんやりと闇夜を照らす外灯を見上げては、視線を逸らしているヨウは生返事で応対。考え事をしているのか、あまり俺の話を聞いてはいないようだ。俺は間を置いて、「シズのことで」何か気掛かりでもあるのか、率直に聞く。
 やっぱり生返事をするヨウは、軽くくしゃみを零して鼻の頭をポリポリ。「シズってよ」ああ見えて自尊心高いんだ、躊躇いがちに話を切り出した。
 
「んでもって手前のことには鈍感なんだ。普段から鈍感そうに見えるけどさ」

 話がよく見えないんだけど。
 俺は首を傾げて、具体的に話してくれるよう頼む。「だから」鈍感なんだ、ヨウは繰り返し、言葉を紡いだ。




[*前へ][次へ#]

15/34ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!