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05-14


 

「もう腹がいっぱいだしな。食べきれない」

 
 付け足してくるシズだけど、俺は勿論、チーム内は物の見事に時が止まった。
 
 え、お前、なんて言った? ミルフィーユいるか、お腹いっぱい、食べきれない…、嘘だろ。絶対嘘だろ。
 
 あの大食らいの食いしん坊シズが俺に食い物を分け与えるどころか、満腹を口走った、だと?
 だってまだ、それ一皿目だぞ。俺は夕飯があるからケーキだけに止めておいているけど、普段のシズなら此処で間食がてらにうどんやピザを頼んだり、デザートを何皿かぺろっと平らげる筈だろ。

 なんでお前、もうごちそうさましてるんだ?
 しかもタダで俺に食い物を与えるなんて…、シズって自分の食べ物を相手にあげる時は物々交換が基本だっていうのに!
 

「シズちゃん、具合でも悪い? 病院行く?」


 ニヤ顔から一変、真顔で失礼な事を口にするワタルさんに怒りもせず、シズはフォークを銜えて「美味くないんだ」とミルフィーユの感想を述べた。

 どれどれ。ワタルさんがシズの口からフォークを引っこ抜いて、ミルフィーユをお味見。咀嚼するワタルさんは眉根を寄せて、「不味くはナーイジェリア」普通のお味じゃないかと率直な感想を告げた。
 同じテーブル内でフォークを持っている俺とココロも一口ずつ頂く。
 うん、シズが言うほど美味しくない味でもないよ。普通にファミレスで出そうなミルフィーユの味。悪くはないと思うんだけど。

「じゃあシズさん。こっちのチーズケーキはどうでしょう? 一口、食べたら気分が変わるかもしれませんよ?」

 ココロの誘いに、シズは瞬きしてワタルさんからフォークを返してもらうとチーズケーキを口に入れて咀嚼。
 眉を八の字に下げるシズは「美味しくない」と同じ感想を述べていた。

「甘い物に飽きてるんっスよ! 俺っちのフライドポテト、分けてあげるッス!」
 
 隣のテーブルから回ってきたキヨタのフライドポテトを口に入れ、シズは暫し咀嚼。
 「不味い」申し訳無さそうに、だけど正直に答えるシズの返答に俺達は目を点。口を揃えて具合が悪いのかと聞けば、そんなことはないと即答される。

 
「ただ、何を食べても美味しいと思えないんだ。最近、何を食べても不味く感じる」
 

 自分でもおかしいとは思っているんだ。
 よく食べていたポテチもポッキーも、コンビニでプレミアが付く一個150円のロールケーキも、200円くらいするチョコレートケーキも、なにもかも美味しくないと思う自分がいる。味がしなくなったというか、なんというか、前のように味に感動できなくなっているんだ。
 空腹も、食べたいという欲求も出てこない。ここ暫く美味しさをまるで感じない。だからって体調が悪いわけでもないし。

「食べることに飽きた…、のかもしれないな。嫌い…になったわけじゃないし」

 シズは自分自身の事なのに、意味が分からないといった表情で首を右に左に傾げていた。
 「そういえば」シズと同校でクラスメートのココロは、最近休み時間に物を食べるシズの姿を見ていないと零す。昼食の間は専ら寝ていますよね、ココロの問い掛けに生返事するシズはこんな経験初めてだと苦笑い。だけどシズ自身は単に食べることに飽きているだけ、すぐに戻ると俺達に告げていた。

 ……シズがそう言うなら、何も言わないけどさ。
 

「あ、分かった。シズちゃーん、食欲じゃなくて色欲がムラムラと出てきてるんじゃなーいっぽ! だって思春期の男の子だものっ。きっと食欲はエッチイ気持ちに転換されッ、アイッダー! 今、本気で殴ったっしょこたん!」

  
 シズから痛い拳骨を貰っているワタルさんが、「ヒドイぴょん!」これでも心配しているのに、とわざとらしく嘘泣き。
 
 それがまたシズの神経を逆立てたのか、肘鉄砲を食らわせていた。
 うん、自業自得ですよワタルさん。隣のテーブルでシモの話が大嫌いな響子さんが青筋を立てていますから、悪ふざけもほどほどに。

「………」

 俺はふとダンマリとシズを観察しているヨウに気付いて、一瞬き。

 意味深に目を細めて、唐揚げを口に運んでいるヨウは何か思う点があったのかもしれない。シズの返答にこれっぽっちも納得していない様子だった。声を掛けたかったけど雰囲気がそうさせてくれなかったから、俺は気付かない振りをすることにした。

 ヨウが何を思っているのか知らないけど…、シズが大丈夫な口振りで語っているんだから大丈夫…、だよな。きっと。
 



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