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05-10


 

 だけど片割れも、先日体育の時間に手首を捻挫しちゃって。ひとりで出展しないといけなくなったんです!


 でもでも私、硬筆ばかり級が上がっていて毛筆はからっきし。とてもじゃないけど、ひとりじゃこなせなくって。顧問の先生と頭を抱えている状況下なんです。習字の上手い波子先輩に頼もうとしたんですけど、
 ほら、彼女も書道部に属していますし、今回の展覧会は合同ですから字でばれかねない。

 習字が上手な人なんてなっかなかいませんし…、どうすればいいんだろうって途方に暮れていた時、波子先輩が田山先輩に頼めばいいんじゃないかって提案してくれたんです。
 
 私はハッとしました。
 そうだ、波子先輩よりも級が上だった田山先輩なら…あ、え、波子先輩、睨まないで下さいよ。

 ……ゴッホン、とにかく田山先輩なら習字が上手だし、書道部にも入ってないとお聞きしていましたから。
 

「田山先輩に出展を手伝ってもらおうと思い立ったんです。先輩、引き受けてくれませんか?」

「まっさか断るんじゃないわよね、田山。この展覧会でどっちが上か決着が付く好いチャンスを、あんた、断るんじゃないわよね! 逃げるんじゃないわよね!」


 今度こそあんたがアタシよりも下ってことを証明できるチャンスなんだから!
 吠える毒舌の波子は放っといて、なるほどね。俺に会いたい理由はなんとなく理解した。
 
 俺はブレザーからヨウと折半している煙草を取り出し、箱から一本抜き取って口に銜える。
 ライターを持っていないことに気付いて、「すんません」火を下さい、俺は近くにいたワタルさんにライターを要求。「ヘイホー」ポイっと百円ライターを投げ渡してくるワタルさんにお礼を言って、煙草に火を点けた。
 「げっ」ヤニ臭くなるでしょ、嫌がる馬場さんを無視して俺は紫煙を吐き出し、返事する。ごめん、無理だ、と。
 
 そんなぁ、堤さんの蚊の鳴くような声とサイッテーという喝破を受け止め、「言ったろ?」俺はもう習字をしていないって、小さく肩を竦める。


「特技として習字は持っているけど「ッハ、自慢?!」……、……、あー。中二まで習字を習っていたから、ある程度はできるけど、出展ってレベルじゃない。二人と違って丸三年も筆を触っていないんだ。腕も落ちているだろうし、他校の俺が書くのは不味いだろ?」

「た、大会だったら不味いですけど、今回は出展のみなのでっ。お願いですよ、田山先輩っ、もう貴方しかいないんですって! 習字教室の子達、大体中学に入る前に辞めちゃっていたから、出展できるレベルで習字のできる人と言えば田山先輩か、波子先輩しかいないんです!」

「そう言われてもなぁ。俺には無理だよ。ほら、こうして地味に不良してるし」
 

 ムリムリ、俺は他を当たってくれと今度こそ踵返して倉庫に戻る。が、思い切り後ろから腕を縋られてしまい、み、身動きが。
 
 「田山先輩ぃい」見捨てないで下さいよっ、私ひとりじゃ重荷です、苦痛です、シンドイですっ! 堤さんが俺の右腕を取って行っちゃ嫌ですと嘆いてきた。

 そうは言っても、俺は習字をする気なんてちっともないんだっ。

 毒舌の波子が俺に会いたいって言った理由も、その出展で俺とケリをつける為だって分かった以上、何が何でも関わる気はないからな! ぜぇえって書かない! 書くもんかぁあ!




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