あいつが噂の舎弟
【舎兄弟】
俺達、不良の間で指す“舎兄弟”はちょっと変わってる。
単に兄分・弟分になるわけじゃなく、舎兄は弟分に背中を預けて先導に立ち、舎弟は兄分の後継者として背中を守る。所謂、信頼を寄せ合ってる絆の深い仲だ。
……なーんて堅苦しいこと言われてるけど、実際、色んな“舎兄弟”がいるもんだ。
例えば、イケメン不良と地味少年の異色舎兄弟とか、な?
―――…ははっ、俺等、これでも胸張って舎兄弟してますが、何か文句でも?
地味少年のこと俺、田山圭太はイケメン不良のヨウと正真正銘の“舎兄弟”を結んでいる。
◇ ◇ ◇
春、といえば新学期にクラス替え、進級に卒業式やら入学式と、穏やかな気候に反してやたら慌しく忙しい季節だよな。
桜の蕾が開き始める頃、俺、田山圭太はどうにか無事に、大切なことだけど、どうにか無事に一年から二年へと進級。胸を撫で下ろす気持ちで新学期を迎えた。クラス替えしたクラスメートもわりと馴染める面子で良かったと思ってるし。
なんたって俺の愛すべき地味友たちがいるんだぜ?
愛すべき地味友は合わせて三人いるんだけど(光喜に透に利二の三人な! 今年も変わらず愛してるぜ!)、誰一人欠けず同じクラスになれたなんて俺、幸せ。去年はドッタドタバッタバタな一年を過ごしたけど、過ごさざるえなかったけど、今年は俺ペースで平穏に静かに過ごそうと心に決めてっ。
「待ちやがれぇえええっ! ケイィイイイ!」
………。
平穏に静かに、と思った数秒前の俺、乙なんだぜ!
俺は必死に足を動かした。向かう先は勿論っ、俺のオアシス! つまり教室! っ、朝から肉体労働乙過ぎるっ。ただでさえ遅刻しそうだっつーのにっ!
ほんっと春は慌しく忙しい季節だよ!
「なぁああんでっ、朝っぱらからお前はそう元気なんだよ! 意味わかんねぇ! 名前の通り元気過ぎるっつーの!」
「るっせぇええ! 俺は男としてやるべきことを果たさなければいけないと思ってるんだ!」
―――バタバタバタ!
―――バタバタバタ!
「それってもう一年も前のことだろぉおお! 水に流そうってっ、俺等、オトモダチ宣言した仲だろ!」
「だぁあれが貴様等とオトモダチだぁああ?! 勝手に過去を捏造するんじゃねえぞゴラァア!」
―――バタバタバタ!
―――バタバタバタ!
「だぁあああっ、タコ沢しっつけー! 朝から俺を愛し過ぎだろぉおお! 愛がおっもーい!」
「俺は谷沢だぁああああ! 待てやケイィイイイ! 俺と勝負しやがれ! 逃げるんじゃねええ!」
―――バタバタバタ、バッターン!
朝っぱらから廊下を全力疾走していた俺は、切れる息を無視して階段を駆け上っていた。
ったくもうっ、タコ沢の奴っ、元気だなおい! まさか登校早々朝から追っ駆けられるとは思わなかったぞ! ハァハァのゼェゼェ、呼吸を乱しつつ俺は手の甲で額の汗を拭った。
はい、ここで問題です。
なんで俺がタコ沢に追い駆けられているのでしょうか? 少しばかり考える時間を与えましょう!
ちなみにヒント、彼の名前と高1の素晴らしき出逢い。俺はキャツのせいなのか、おかげなのか、とにもかくタコ沢と関わったせいでヨウの舎弟になりました! 間接的にだけど、タコ沢が関与していたから俺がヨウの舎弟になったとも言える!
……はい、時間がきましたのでお答えしましょう。
アンサー、俺とヨウに負けたアンド、ケッタイなあだ名を付けられたからでしたー!
ははっ、タコ沢って名前は確実に俺のせいだったりするけど、ネーミングを考えたのは兄貴だ。俺はタコ沢なんてネーミング、一抹も考え付かなかったぞ! べっつのあだ名、考えてたかもしれないけどさ!
まあ、それはさておいて、男(漢とも書く)タコ沢はそんなこんなで俺とヨウに恨みを抱き、日々雪辱を晴らそうと俺達に勝負を挑んでくる。
舎兄のヨウの場合は腕っ節があるからどうにでもなるけど、まーったくもって喧嘩のできない舎弟の俺はこうして逃げるしかない。
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