05-05
能天気に笑声を上げるヨウは、ダルくなったと体育館の壁際に向かう。
当然のようについて行く俺は舎兄と一緒に腰を下ろして、ペンキの剥げかけた壁に寄りかかった。向こうでは体育の教師の指示に従順なクラスメートが反復横飛びをしたり、長座体前屈をしたり、腹筋をしたり、測定に勤しんでいる。
「あっれ、もう休憩?」俺達のサボりに逸早く気付いた透がペアを置いてこっちに歩んで来る。ちなみにペアはあんまり俺達に関わりたくないのか、距離を置いて佇んでいた。
よっ。片手を挙げる俺に片手を挙げ返して、「ズルイって」透は俺達に文句垂れた。
「僕も休憩したい。荒川くんも圭太くんも、そんなところでサボってさ」
「んじゃあ来るか? 大歓迎だぜ?」
頭の後ろで腕を組むヨウが悪の道に誘ってくる。
「ペアがぼっちになるから」真面目にこなしてきます、大袈裟に肩を竦めた透。でも終わったら、そっちに行くと頬を崩して俺達に手を振って去って行く。
その際、
「荒川くん。今日こそは僕の絵にモデルになる話を「いや、マジで勘弁してくんね? 小崎」
今回も敢え無く絵のモデルを断られた透に“撃沈”という二文字はない。
寧ろ、「僕は諦めない!」こんな近くにイケメンがいるんだから、しかもクラスメートになっているんだから、絶対モデルになってもらうんだ! 不良なんて関係ないっ、だって圭太くんの友達だし僕には無害、と、闘志を燃やす一方。
「クロッキーでもいいから!」絶対モデルになってもらうからね! まるで宣戦布告のように腹筋測定の場へ向かって行く。
ほんっとあいつは絵が好きだよな。そりゃあヨウのようなイケメンくんを書きたくなる気持ち、分からないでもないけどさ。不良にモデルになれと押せ押せモードになる透って度胸あるよ。まじで。
ふふっ、だけど俺、実はこっそり嬉しいんだ。
俺やヨウを避けないで、クラスメートとして、友達として普通に接してくれてるんだから。
他に避けないで普通に接してくれるのは利二と光喜くらいか。タコ沢は俺達に喧嘩を売ってくる奴だし、他の奴は普通に接してくれても“関わりたくない”オーラを醸し出すからな。心置きなく話せるのは地味友三人くらいなもんだ。ヨウもすっかりあいつ等と仲良くなってくれているし(性格的に馬が合ったのかもな)。
「小崎しつけぇよ」ゲンナリしているヨウに、「一度くらいいんじゃね?」あいつの絵の上手さは目を瞠るぞ、と一笑を零す。
「丁寧に描いてくれるって。まあ、どんだけモデルさせられるか分からないけど。あいつ、一度凝り始めたらとことん追求するタイプだし。……、馬場さんもそうだったな」
「馬場? ああ、毒舌の波子か」
「うん。あ、本人の前ではその呼び名を口にした事はないよ。口にしたら最後、シメられること間違いないから。俺、そいつに超恨まれてるんだ」
ガックシ肩を落とすと、「なんかしたのか?」ヨウは聞き手になってくれる。
なにかしたなんてそんな滅相な。
俺はなにもしちゃないんだよ、なあんにも! 極力関わらないようにしていたわけだし。敢えて言うなら、そうだな、「習字をやめたことかな」遠目を作って俺はポツリと吐露。
目を点にするヨウに、「馬場さんはさ」俺をライバル視していた。つまり、打倒田山だったわけだ。
その俺が中二に進級して、成績の悪さと進路の不安で塾に通わなくなったから習字をやめらざるを得なかったんだけど。
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